クロノプロジェクト正式連載版

第44話「フィオナの手紙」
 
 
 日…
 
 
 2人は一緒にフィオナと話そうと早起きした。
 
 
「おはよう!」
 
 
 二人が部屋から出てくると、フィオナが挨拶を返す。彼女は丁度朝ご飯の支度を
していた様だ。
 森の朝は男達は警備の見回りに出て、昼時までに安全を確認してから女達もそれ
ぞれの仕事場に動き出す。その間は女達は家の周りの仕事をし、様々な家事をこな
している。
 
 
「おはようございます。お二人とも。もう少しゆっくり眠っていらしてよかった
 のですよ?」
「いや、今日はフィオナに話が有って…。」
「あら、私もありますの。どうぞ席について下さいな。お食事の後お話しましょう。」
 
 
 そう言って微笑むと彼女は手早く食卓に料理を並べ、朝食の用意が整った。今朝
のメニューはコッカドゥドゥの卵とパレポリ豚のハムで作ったハムエッグとオニオ
ンスープにサラダだった。食事中は何を話すでも無く、静かに黙々と食べ終えた。
 食事が済み、テーブルを片付けるとフィオナが2人に椅子に座って待つ様に告げ、
奥のフィオナ達の寝室に歩いて行った。程なくして戻るとその手には一本の筒があ
った。彼女は席につくとテーブルの上にその筒を置き言った。
 
 
「お二人にこれを差し上げます。」
「これは?」
「これは国王陛下へのお手紙です。」
「え?…どうしてそれを?」
 
 
 フィオナはにっこりと笑みを見せて答える。
 
 
「ごめんなさい、悪気は無かったのよ?初めからこれは渡すつもりでした。
 でも、お二人にはこの森のことをよく知って欲しかったの。」
 
 
 2人はフィオナの言葉に混乱した。
 
 
「え?どういうことだ?」
「もしかして、私達への一連の行動って計画的?」
「えぇ、マールさんの仰る通りです。」
「え、えーーーー???」
 
 
 二人は更に混乱した。
 
 
「…カエルさんはこの森にとって大切な方です。クロノさん達も大切な友人では有
 りますが、森の大多数の方にとっては馴染みの薄い方々ですから、色々とステッ
 プを踏む必要があったのです。」
 
「ステップ?」
 
「えぇ、森の人々がお二人を知る時間とお二人がこの森を知るという双方の知る機
 会を置くことは互いの安全と信頼に大切なことなのです。
 …残念ながら人間と魔族はそれだけ距離が離れているということです。私は今の
 平和を守らねばなりません。」
 
「そっか…そうだよな。昨夜のレンヌさんとの話でフィオナの意図したことがわか
 る気がするよ。」
「うん、私も…ここでの時間は凄く良かったと思う。」
 
 
 2人はフィオナの立場の複雑さを察した。人間であり、何よりレンヌの言葉にも
有った様に魔族を敗戦に導いた犯人ともいえる自分達の存在は、森の中に少なから
ぬ波紋を投げ掛けてもおかしく無い。そのことでここの黄金の秩序が乱れる様なこ
とがあっては困るというのはよくわかる話だった。
 勿論、フィオナ自身が森の魔族の住人達の事を信用していないわけではないのだ
ろう。カエルを頼りやってきたという程の住人達だ。早々に人間だから悪という程
に単純な人々ではない事は十分にわかる。だが、彼らの精神的な傷はまだまだ癒え
ているはずはない。人間を信用する程にまだオープンな時代ではないのだった。
 
 
「お二人にはよくわかって貰いたかったのです。力を持つ者がもたらす結果という
 ものを。今後ガルディアに向かえば、こことはまた違った一面を見る事となるで
 しょう。勝者と敗者の間に何があるのか?何が失われ何が生じるのか?
  この森はその一つの要素であり、また人間と多種との共存をどう計るかの一例
 なのです。」
「えぇ、わかるわ。戦争の結果産まれたこの森は凄く大切な宝物かもしれない。こ
 こが未来に繋がっていれば…たぶん人類は平和に暮らせるかも知れない。」
「そう、この森は多くの可能性を持っています。そして、それはカエルさんがもた
 らしたものなのです。」
「え?」
 
 
 二人はフィオナの言葉に驚く。フィオナは続ける。
 
 
「…この森の人々は皆カエルさんと何らかの縁で結ばれています。言わば、カエル
 さんはこの森そのものなのです。お二人が会おうとしているカエルさんと以前の
 カエルさんは別人とお呼びしても良いわ。今の森の調和はカエルさんという存在
 が作り出したものです。彼は人間であり蛙です。彼が人間だったら、この森は人
 間だけの森になっていたのかもしれない。」
 
 
 彼女の言葉は確かにその通りかもしれない。森の人々が今の構成になったのも、
カエルという存在が人間でも魔族でもないことも一因として考えられる。何より2
人もカエルの人となりはそれなりに冒険を通じてわかっている。彼があの姿だから
こそ痛みを知り、多くの弱者に対して正義の剣を振るう姿は想像に難く無い。
 
 
「…そうよね。カエルっていつもあんまり多くは語らない人だけど、色々とみんな
 のこと気づかってたものね。」
 
 
 マールが呟く様に静かに言うと、フィオナが微笑んで言った。
 
 
「フフフ、やはりお二人はカエルさんのことを分かってらっしゃる様ですね。
 彼はこの森にとって失う事のできない存在です。そこでです。どうか、カエルさ
 んの行方を調べて来て頂けないでしょうか?」
「え?えぇ、良いわよ。え、もしかして、その為だったの???」
 
 
 マールの疑問にフィオナはにっこり微笑んで答える。
 
 
「えぇ。そのためにこのような回りくどいやり方ですが、お二人のお時間を頂きま
 した。」
「なんだ、そうだったんだ〜。」
 
 
 マールが拍子抜けした様に言った。クロノも張りつめていた緊張感が解けたが、
フィオナの心配を察し言った。
 
 
「この森がカエルを大切に思う気持ちや、この森と世界が抱える悩みは分かった気
 がするよ。回りくどいって言うけど、俺達にはかえってそれで良かったと思う。
 逆に礼を言うべきだろう。今まで色々とこちらこそ迷惑をかけた。すまない。そ
 して、有難う!」
 
 
 クロノはそう言うと深々と頭を下げた。クロノが深く頭を下げたことにフィオナ
は勿論、マールも驚いた。
 
 
「お上げ下さい。今回は私達が謝るべき立場です。それに、私達の方もお二人から
 は得る物が大きかったわ。」
「得るもの?」
 
 
 マールが不思議そうに聴いた。
 
 
「ここで育つ子供達が知る人間についての情報は正直…あまり良いものではないわ。
 でも、お二人が来た事で本物の人間の持つ良心を伝えることが出来たと思うの。
 私も感謝しています。」
 
 
 そう言うと今度はフィオナが深々と礼をした。
 2人は慌てて頭を上げる様促す。
 
 
「いや、そんな。俺達は何も。」
 
 
 促されて顔を上げたフィオナが悪戯っぽい笑顔で微笑み言う。
 
 
「フフフ、こういう場合、お互い様って言うのよね?」
「そうかな?」
 
 
 フィオナの言葉にお互いに顔を見合わせて、3人は暫く笑っていた。
 その後、フィオナから手紙を受け取った2人は支度をして森を出る事にした。森
の外への道では森の住人達が多数集まり2人との別れを惜しみ、ガルディア側出口
 に来ていた。見送りに一緒に来ていたフィオナが代表して2人に言った。
 
 
「お二人の旅の無事をお祈りしています。」
「色々ありがとう。フィオナさん、そして皆さん。」
 
 
 マールがフィオナに礼を言う。クロノは大勢の人々に言った。
 
 
「みんな、どうもありがとう!」
 
 
 大勢の森の住人達が見送る中、二人はガルディアへの道を歩き始めた。

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