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■ 星石作・「炎の護り手」
 
彼は、ゆっくりと、その血の色をした瞳を開けた。
 
頭がガンガン痛み、全身の節々が悲鳴を上げている。
寝かせられていたベッドからどうにか起き上がると、そこはドーム状の天井を持つ、小型の実験施設のような不思議な建物の内部だと知れた。
 
「生きては・・・いるようだな」
 
生き延びたというのに、喜びよりも不審を露わに、男はベッドに上体を起こした。
体を覆った特殊な素材らしいブランケットを剥ぎ取ろうとして、男はふと、自分が全裸らしいことに気付いた。
 さて。これは、どういう状況だ?
 
彼が痛む頭で記憶をまさぐろうとした時、シュッというエアの排出音と共に、誰かが入って来るのが分かった。
 
「あ! あんた! 気が付いてたの!?」
 
どこか鼻っ柱の強さをかんじさせる口調で、その女は、手にしていた食料を床に置き、彼の元に歩み寄った。
 
「良かった〜、流氷に混じって浮かんでるのを見た時は、ダメかと思ったわよ」
 
曙のような赤い瞳に縁なしの眼鏡、つやのある紫の髪は肩のあたりで切り揃えてある。
雰囲気としては、学究の徒を思わせた。
 
明らかに、自分を知っているものとして口をきくその女に、彼は怪訝そうな視線を向けた。
 
「・・・ん? なによ、あんたまさか、あたしのこと忘れたの?この才色兼備の天才を」
 
高飛車に胸を反らすその仕草に、見覚えがあった。
 
「・・・ルッカ、か?」
「よ〜やく、思い出してくれたようね?」
 
形の良い唇を、不敵な笑みの形に歪ませて、かつて彼の仲間であった娘は、彼を覗き込んだ。
 
「久しぶりね。三年ぶりになるかしら? 魔王・・・じゃなくて、ジャキと呼ぶべきね」
 
ルッカはジャキの横たわるベッドのへりにひょいと腰を下ろした。
黒い革のミニスカートの下の、白い柄ストッキングの足が眩しい。
 
「・・・随分、感じが変わったな」
 
女は、変わるものだというが、本当だな。
ジャキは、以前のキテレツなイメージの強かった少女と、目の前の、中々に知的な色香を振りまく女を無意識の内に比べていた。
 
「そりゃあ、いつまでも子供じゃないわよ。一応、正式な学者だしね。あんたは変わらないけど」
 
ルッカは立ち上がり、荷物をまさぐって、ブランデーがあるけど、飲む?
♀ヲいでしょ、と訊いてきた。体の冷え切っていたジャキは、即座に頷いた。
 
なかなか上物らしい酒を一気に喉に流し込むと、ジャキは、なぜルッカが再びこの古代にやってきたのかを問うた。
 
「このまま、古代にいたって、多分サラさんは見付からないって、あんたに伝えにきたのよ」
 
それがルッカの答えだった。
 
「どういうことだ?」
「私もね、サラさんのことは気になってたわ。あの後、時間についての研究を続ける過程で、彼女の行方について、一つの仮説にたどり着いたのよ」
 
言葉を選びつつ、ルッカは言った。
 
「はっきり言え」
「彼女は・・・多分、黒の夢が実体化する過程で発生した、時間の渦に巻き込まれたと思うの。だから、いくらこの時代を探しても・・・」
「見付かる訳がない、という訳か」
「そういうこと」
「では・・・サラは、どの時代に飛ばされたのだ・・・?」
 
言葉は平静だ。だが、ルッカは、握り締めたジャキの拳が震えているのに気付いた。
 
「我々のいる、この時間軸には、いない可能性もあるわ」
「何・・・」
「シルバードでも行けない・・・本物の時空の狭間に落ちたのかも。これだけ、痕跡を残さず消えたのは、そう考えるしか」
 
ルッカの言葉の間にも、ジャキはゆっくりうなだれていった。両の拳が、ブランケットを握り締める。
 
「ルッカ」
 
ややあって、彼が不意に口を開いた。
 
「なに?」
「俺は・・・どうしたら・・・いい?」
 
思いがけずもれた、かつて魔王と呼ばれた男の弱音に、ルッカはハッとした。
 
「探す、術はないというのか・・・このまま、サラは・・・!」
 
思いがけず激しい仕草をしたせいで、ジャキの長い髪が乱れた。
落ち着かせようと、彼の剥き出しの肩に触れたルッカは、いきなり凄い力で抱きしめられた。
 
「ちょっと・・・ッ!」
 
すすり泣きが聞こえたのは、その時だった。
身の危険を感じて振り払おうとした彼女は、思わず動きを止めた。
顔をルッカの肩にうずめたまま、彼は泣き続けた。しがみつく腕の力が段々強くなる。
ルッカは、痛みを訴えることも忘れて、彼の背を静かに撫でさすっていた。
 
 
 
 アシュティアとは、古代の言葉で「炎の護り手」を意味するのだと、その古代ジール王朝に属する者である、王子ジャキは言った。
 
同時にそれは、代々王家に技術者として仕えてきた、由緒正しい一族の名でもあるのだと。
彼らは、初代ジール女王が王朝を興す際にも女王に従い、数々の新たな道具の発明・・・特に武具の提供で初代女王を盛り立て、古代魔法文明の立役者の一人となったのだ。
 
あたかも、神々の王者に、無敵の武器を与える鍛冶の神の如くに。
 
かの一族に、炎の術の使い手が多いことから、かれらは初代女王より「アシュティア」の姓を与えられ、以後、その一族は、代々その知恵と技術をもって、王家に仕える者となった、と言われている。
 
「へえ・・・ウチの苗字の由来が、そんなだったなんて、全然知らなかったな」
 
由緒あるアシュティア一族の末裔である、ルッカ・アシュティアは、そういってその薔薇を思わせる瞳を瞬かせた。
彼女が窓越しに眺めているのは、夕日の照り返しを受けて、金色の鱗のように輝く海だ。ガルディア王国の平和な一日が暮れ行こうとしている。
ジャキは、彼の好みに合わせて設えられた、黒いダマスク織のソファに身を沈めながら、金色の光に縁取られたルッカの横顔を眺めていた。
 
美しい女だと、確かに思う。「才色兼備」の自称は決して誇張ではない。
王子として暮らした故郷は失われ、魔王として生きた拠点は自ら捨てた。行くあてのないジャキは、結局、ルッカの家へ転がり込んだのだ。
彼らのいるこの部屋は、彼が来てから敷地内に増築された別棟の建物で、今いるのは一階の居間として使っている広い部屋だった。
「長い年月は、お前たちから一族の由来の記憶を奪い去った。だが、その血に流れる炎の魔力を消し去るには至らなかったのだ」
ジャキは静かに、元の仲間である女を見つめた。
 
出会った時は、敵だった。
勇者カエル、剣士クロノと共に、魔王と呼ばれていた自分を倒しにきた討伐隊の一人で、炎の術の威力には、正直驚きを感じた。
仲間になってからは、若さに似合わぬ知性と意志力に、好感を持っていたと言っても良い。知性を重んじる文明の出身者である彼にとって、高度な知識を備えた彼女は、ストレスを感じずに会話しうる、貴重な存在だった。
ルッカなら、サラの居所を突き止められる。
そう思ったのも事実だが、ルッカだから、というのも確実にある。
 
二年前、マールはクロノと結婚し、正式にガルディア女王となった。
ルッカは、王室直属の研究機関で、主任研究員を務める正式な学者であり、その元で暮らすジャキも、当然ガルディア国民ということになる。
かつてを思えば、信じ難い程平穏な暮らしを、ジャキは享受していた。
 
「妙な感じね」
 
唐突に、ルッカが呟いた。
 
「?」
「私とあんたに、そんなご縁があったなんてさ。・・・でも、思えば、あの時集まった仲間はみんな、何らかの形でラヴォスにご縁のある連中だったのよね」
 
そいつらに倒されてちゃ、ラヴォスも世話ないわね、とルッカは笑った。
ジャキは、立ち上がって、ルッカの側へ歩み寄り、手を伸ばして窓を閉めた。
 
「・・・もう、風に当たるのは、よした方がいい」
 
ルッカに手を貸して立ち上がらせつつ、カーテンを引く。
 
「・・・腹の子に障る」
ルッカは大分目立つようになった自分の腹に目を落とし、そっと頷いた。
 
 
 
 ーーーー子供の頃、聞いたお伽噺に、こういうものがあった。
 
 
 
とある高貴な家系に生まれた赤ん坊が、何故かずっと拳を握り締めて開かない。
いぶかる周囲の大人をよそに、その子は成長し、ある時、不意に手を開く。
すると、その手には、世界の王となるべき者の証である、聖なる印が握られていた。
 
こんなお伽噺が、現実のものになるとは思わなかった。しかも、自分の娘の身で、だ。
 
「ふーむ、こりゃ確かに、何か握っとるのう。しかも、明らかに魔術的なものじゃ」
 
 俺から事情の説明を受けて駆けつけたボッシュが、太い指で娘の小さな右拳をつついた。
 その拳は固く握られ、七色に移り変わる不思議な光が、指の隙間から漏れ出ている。
 
「魔術的なものって、どういうこと?」
 
話を聞いて、クロノと共に娘を見にきていたマールが、ボッシュに問うた。
 
「ほれ、お前さんのペンダントみたいなもんじゃよ。魔力を蓄えたり、増幅したりする、特別な道具じゃ」
 
ボッシュはマールの胸元のペンダントを指さした。
 
「んじゃ、これもドリストーン製の何かってことか?」
 
クロノがベビーベッドの上に屈んで、娘をしげしげ眺めた。
 
「いや。この輝きは、赤き石ではない」
 
俺はゆっくり首を振った。
 
「じゃ、何だ?」
「それが分からんから、困っているのだ」
 
思わず、ため息が洩れる。
 
「ルッカなら、何か機械で測定して、中のもんの見当つけられるんじゃねえのか?」
 
クロノの問いは、この子の母であるルッカはどうしているのか、という意味でもある。
 
「出産時の消耗が激しくてな。奥の部屋で眠らせている。術をかけたから、当分起きん」
 
俺はちらりと、ルッカのいる部屋に続く扉を見やった。
 
「うーん、自然に手を開くのを待つしかないのかな」
「いや。そのペンダントがあれば何とかなるやも知れん」
 
ボッシュの言葉に、マールはきょとんとした。
 
「マール。そのペンダントを、この子の手に近付けてみよ」
「え? う、うん」
 
マールは言われるまま、ペンダントを手に持ち、そっと、娘の手に近付けた。
 
「・・・・ッ!」
「まさか・・・ありえん!」
 
俺とボッシュは、同時に驚きを表した。
娘の開いた手の中には、きらめく鱗の蛇が、虹色の宝玉を掲げる意匠の、美しい指輪があったのだ。
 
「ジール女王の個人印章!? まさか、そんなことが・・・!」
 
ボッシュは動揺のあまりか、椅子にどさりと崩れ落ちた。
 
「ねえ、何? どういうこと? これって何なの?」
 
マールはさっぱり理解できない様子だ。
 
「・・・ジール王家では、王家の紋章以外にも、その王族個人個人を表す、個人印章というものが存在する」
 
俺は努めて平静を装った。
 
「この虹色の蛇の印章は、俺の母の印章だ。
 他人が使用することは、まず有り得ない。そして母はこの指輪を、死ぬ時まで身に着けていた」
 
マールとクロノが、顔を見合わせる。
 
「んじゃ、この子って・・・」
「あのジール女王の・・・生まれ変わり・・・てこと・・・?」
 
二人は、一瞬の間の後、驚きの絶叫を放った。
 
「・・・これで、この子の名は決まった」
 
俺は、大人たちの騒ぎのせいで眠りから醒めたらしい娘を覗き込んだ。深紅の瞳が俺を見る。
 
「イアーレト。お前の名は、イアーレト・ズルワーン・ジールだ・・・」
「ジャキ、それは・・・」
「え? てっきりサラにすると思ってたのに」
 
俺はマールをじろりと睨んだ。
 
「ジール女王の・・・こやつの母親の名前じゃよ・・・」
 
ボッシュが説明する。
 
「うわー、世界を滅ぼしそうな名前だ・・・」
 
余計な感想を口にしたクロノを、俺は思い切り蹴飛ばした。
 
 最後の女王の名を与えられた少女が、パレポリのガルディア侵略を予言し、単身敵地へ乗り込んで、敵の主力部隊を魔術を駆使して撃退するという、英雄的行為を果たすのは、この数年後の出来事である。
 
 その際、少女の姿が、髪の長い、王冠を戴いた女の姿に変わったという目撃証言もあるが、あくまで噂の域を出ない。
 
 
 
 
 
 ーーーー外の世界から隔てられたような夜の森の中にも、噴きあがる炎の轟音と、渦巻く黒い煙が侵入してきていた。
 
 俺は、久しぶりに愛用の鎌の重みを感じながら、木々に覆われた丘の斜面を一歩一歩頂上に向かって進んでいった。ここは、ガルディア王国の南、最近独立したパレポリとの国境に面した、フィオナの森の端の丘だ。
 
「確かに、ここで間違いないようね。魔力反応が出てるわ」
 
ルッカが、先鋭的なデザインのゴーグルに表示されているらしい情報を読み取りながら呟いた。油断なく銃を構えているが、不安に揺れているのが気の乱れから読み取れる。
 
「しかし、にわかに信じ難い話ではあるがな。そんなこと、本当にあるのか?」
 
立場上、城から離れられないクロノに代わって、助っ人に駆り出されたカエルも困惑気味だ。グランドリオンの輝きも、心なしか鈍い。
 
「・・・行って見れば、分かることだ」
 
俺はそう呟きつつも、先ほど聞いた難民たちの証言を思い返していた。
 
新興国家パレポリが、国境を破ってガルディアに侵略を開始したのは、先日未明のことだ。
あちら側は前々から極秘に準備を進めていたらしく、ガルディア側は全く気付いていなかったのだが、ただ一人、例外がいた。
 
それが四歳の我が娘、イアーレトだったのだ。
 
南から、怖い人たちがやってくる。
そう言って、突然泣きじゃくり始めるあの子に、俺を始め、周囲は困惑した。何度なだめても、繰り返し訴える娘の態度に、俺が何かあると感じていた矢先、パレポリ軍が国境を破って侵略を開始したとの報が伝えられたのだ。
 
娘が姿を消したのは、その時だった。ルッカの母ララによると、巨大な竜のようなものを呼び出し、その背にまたがって、南へ飛び去ったという。俺とルッカは、助っ人にカエルを頼み、その後を追った。
 
その途中、フィオナ神殿に避難していた国境沿いの村の者たちから、不思議な話を聞いたのだ。
魔法をふるって自分たちを助けてくれたのは、小さな女の子だったのだが、パレポリ軍が本格的に反撃してくると、突如その姿が、きらびやかな衣装と宝冠をまとった、背の高い大人の女に変わったのだと言う。
その女の特徴は、俺の知る、ジール女王イアーレトに酷似していた。
 
不意に視界が開けた。
月光が射す丘の頂上、眼下に燃えるパレポリ軍施設と街を見下ろすその場所に、人影があった。
 
俺たちの気配に気付いたのか、影はゆっくり振り向いた。
 
羽根飾りの付いた、豪奢なマントにローブ。頭には、王にだけ許される、特別な細工の宝冠。
何より、近寄り難いまでのその美貌は。
俺の母、ジール女王イアーレト13世その人だった。
 
「久しいの、ジャキ」
それが、再会した母の第一声だった。
 
 
 
 轟音と共に、眼下で爆発が起こり、炎の舌が月を舐めようとするように噴きあがった。
 炎の赤い照り返しが、血のように女王に降り注ぎ、華麗な装飾品が艶やかに輝いた。右手には、魔力の籠もった品であろう、儀式用の麗しい矛を持っている。
 
「・・・母上」
 
ようやく、俺の口から洩れたのは、そんな言葉だった。
 
「わらわのような者を、まだ母と呼んでくれるか。有り難いぞえ、ジャキ」
 
女王はふっと笑い、呆然としているルッカとカエルに向き直った。
 
「そなたらも、騒がせたようで申し訳ない。改めて名乗りを上げよう。わらわは、かつて魔法王国ジールにて女王と呼ばれた者、イアーレト・ズルワーン・ジール13世なり」
 
ルッカが銃を収め、まじまじと女王を見た。珍しく言いよどみ、やがて口を開いた。
 
「・・・レト・・・? レトなの?」
 
いつも娘を呼ぶ愛称で、ルッカは呼びかけた。
 
「確かに・・・わらわのこの肉体は、汝が娘のもの。わらわは汝の娘に転生することで、再びこの世に生きるを得た。この姿になる予定はなかったが、事態は切迫しておるゆえ」
 
穏やかな声で、女王は言った。
 
「・・・で? あんたの目的は何だ、女王様? 事と次第によっちゃ・・・」
 
カエルはグランドリオンに手をかけたままだ。
 
「早まられるな。わらわはそなたらの敵になりに来たのではない」
 
女王がゆるゆると首を振る。
 
「あなたの目的は・・・サラか?」
 
俺の言葉に女王は静かに頷いた。抑えてはいるが、痛いほどの悲哀が感じ取れる。
 
「わらわはかつて、ラヴォスと共に滅び、その呪縛から解放された・・・魂のみとなったわらわは、あらゆる時空を巡ってサラを探したのじゃが・・・」
 
探索の旅の後、女王が知ったのは恐るべき事実だった。
滅びたはずのラヴォスは、次元の渦に落ちたサラを取り込み、更に凶悪な存在へと進化していたのだと言う。
 
「わらわは、その存在を便宜的に”時食い”と呼んでおる。文字通り、存在する時空そのものを食らい、無に帰すという恐るべき怪物じゃ。奴の目的は、存在するあらゆるものを取り込むこと・・・そのために、あらゆる時代に働きかけ、汝らが救ったこの世界を”否定”するつもりなのじゃ」
 
女王は燃え落ちる広大な施設を睨み、振り返った。
 
「このパレポリの侵攻もその表れの一つじゃ。自分を倒した中心人物のいる時代の流れをゆがめるつもりじゃろう・・・」
「なんてこと・・・」
 
ルッカは嘆息し、首を振った。俺はガンガンする頭で、どうにか事態を受け入れようとした。
 
 
 サラ。
 俺の口から、我知らず、その名がこぼれた。
 
「わらわは、魔力でもって強引に実体化し、サラを救出しようとも考えた・・・じゃが、この身はすでに、あまりにもラヴォスの力に汚されていた・・・。そのような体では、近寄っただけでラヴォスに取り込まれかねない」
 
女王は、自分の肉体を静かに見下ろした。
 
「ラヴォスに汚されておらぬ、新たな肉体の器が、どうしても・・・どうしても、必要じゃった・・・」
「・・・それで、あなたはあの子に転生したのね?自分の息子の娘に」
 
ルッカの言葉に怒りはなく、腑に落ちたという安心感が感じられた。
 
「申し訳ない・・・ジャキは勿論、我が一族に何の義理もない汝までも、結局わらわは利用したこととなる・・・」
 
女王はルッカに向かって丁寧に頭を下げた。王族がこのようなことをするのは、極めて異例だ。
 
「結局わらわも・・・ラヴォスと変わらぬな」
 
許されざる罪人。
 
 不意に、ルッカが笑い声を上げた。
 
「?」
「やっぱり、あなたとジャキって似てるわ」
「・・・似ている?」
「ええ。凄く自分に厳しいの・・・自らを損なうほどに、ね」
 
そして優しい目で、女王を見た。
 
「あんまり自分を追い詰めないで。後悔なら、嫌というほどしたでしょう? 今はこれからのことを考えるべき時だわ」
「・・・すまぬ」
 
女王は静かにうなだれた。
 
俺は女王に歩み寄り、その目を覗き込んだ。
 
「母上・・・案内してくれ。サラの元へ」
 
 
 続く(?)

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