クロノプロジェクト正式連載版

 

 第3話「勇者カエル」
 
 
 …は再び少し遡る。
 
 王国歴601年。世界は魔王戦争の傷跡を残しつつも、平和を取り戻していた。
 世界はガルディアを中心に再び秩序を取り戻し、復興へ向けて歩き始める。
 
 
 
「…もっと腰を据えろ!そんな構えではすぐにやられるぞ!」
 
 
 
 カエルの怒声が飛ぶ。
 一列に整列したガルディア王国の兵士達の剣術指南を任されたカエル。
 
 魔王戦争後、国王は救国の勇者グレンに親愛勲章を正式に授与し、王国の剣術指
南役に就くことになる。国王直々の頼みのため、カエルは断らずに就任した指南役
だが、カエルが上司となることへの不満は少なからずあった。未だ魔王戦争時代の
偏見が直ったわけではなく、国民達も救国の英雄がカエルなどとは話題にしたくも
ない様子で避けていた。
 そして、時が経つにつれ、カエルの危惧していた事態は着実に広がっていった。
 
 
「よし、素振りはこれまで、これからオレが手合いをする。
 だれか自らオレと手合わせしたいと思う者はおらぬか?」
 
 
 カエルの問いに兵士の誰もが下を向いて答えない。カエルがまたかと思っていた
その時、1人の兵士が歩みでた。
 
 
「お手合わせ宜しくお願いします!!!」
 
 
 兵士は歳の頃16歳くらいの少年で、名をキールという。キールはこの兵士達の
中でリーダー的存在で、剣術の腕も相応の物をもっていた。カエルは久々に楽しめ
そうな相手が名乗り出たので心踊った。
 
 
 二人が木刀を手に持ち構える。
 
 
「よし、どっからでも自由にかかって来い!」
「イエッサー!」
 
 
 キールはカエルの呼び掛けにも慎重に動き、じっくり間合いを計りながらじりじ
りと迫る。しかし、カエルは動じずに目を閉じてその気配を探り構えている。
 
 
 
「タァァァアアアア!!!」
 
 
 
 じっと構えて目を閉じているカエルに対してキールは跳躍し全力で振り降ろした。
カエルは先手を打って手前で剣を受け止めた。そして、目を見開くとそのままの勢
いで刃を立てずに思いっきりなぎ払う。しかし、キールはその勢いに踏みとどまり
切り返した。周囲の兵士達が一同に二人の戦いにため息を漏らす。
 キールは果敢に切り込んだ。キールの剣は次々にカエルの体に向かって繰り出さ
れる。カエルはその剣に冷静に、だが、少し嬉しそうな表情で受け止めた。
 
 
「ほぅ、上達したな!」
「…動かしてぇ!」
「…そうか!」

 
 
 カエルはまだその場から一歩も動いていない。キールは一歩でも動かしたかった。
一度間合いを取る為に後退する。
 
 
「!」
 
 
 カエルは後退したキールから溢れる気迫を感じた。体全体から力が溢れている様
な存在感だ。カエルは静かに再び目を閉じて構える。カエルからも静かな気迫が溢
れだした。二人の体から溢れる気迫に周囲にいる者は圧倒されて、体を動かすでも
なく、ただ目を開いているしかできなかった。
 
 
 
「シャァッッ!!!」
 
 
 
 キールが仕掛ける。構えた瞬間に力が切っ先一点に集中したのを感じたと同時に、
その力は風の様な速さで迫った。カエルはそれに正面に向かって一歩動き踏ん張り
受け止めた!強い衝撃波が衝突の瞬間に周囲全域に伝わる。兵士達の中にはその力
にもろにぶつかり、後方にいる者達を巻き込んでドミノ倒しになる者もいた。
 
 
 
「ダァアアアアアアア!!!!」
「!」
 
 
 
 一撃目で誰もが終わったと思ったが、第二の衝撃波が響いた。キールは一撃目を
ぶつけるとすぐに突進しカエルに正面から間髪入れずに切り込んでいた。カエルは
衝撃波を受け止めるための体制を取っていて大振りにずれていた。キールは取った
と感じた。
 しかし、カエルはその体制から剣を流す様に払うと、その勢いで一気に剣の柄で
殴る様に打ち払った。キールは防ぐこともできずにもろに食らってしまい、壁にそ
のまま激突した。
 
 
「…く、くそぉ…。」
 
 
 キールはそのまま意識を失ってしまった。
 周囲の者はあまりに大差の付いた結果に驚いて困惑している。カエルは訓練の休
憩を命じると、キールを医務室に運ばせた。
 
 
 
 
 
 ガルディア城の医務室は古くから地下にある。地下と聴くと湿っぽくとても空気
が悪そうなイメージだが、ガルディア城は通気に関しての高い技術を有しており、
尖塔から巻き起こる強い上昇気流の風を通風口に誘い込み、城全体を自然の風の力
を利用して換気させているため、どの部屋も新鮮な空気が入る。冬場はその通風口
を閉ざすことで暖気を閉じ込めるため快適な生活が年中通して送れる様に出来てい
る。
 キールは医務室の隅のベッドの上で座る様にして見舞いに来たカエルと向かい合
っていた。
 
 
「…キール、お前の剣は良い太刀筋を持っているが、お前の心がそれを育てるのを
 拒んでいる。今後も真面目に俺と剣の修行を積めば必ず強くなれる。どうだ、や
 る気はないか?」
 
 
 ベッドに横たわるキールに言った。キールはその言葉に呟く様に答える。
 
 
「……我慢できねぇ。」
「?」
 
 
「カエルに教えられて上手くなるなんて我慢できねぇよ!」
 
 
「!?」
 
 
 そう叫ぶ様に言うとキールはカエルを睨んだ。
 カエルはその目をしかと見ると、目を閉じて考え込んだ。
 しばしの静寂の後、カエルは静かに言った。
 
 
「……ならば、オレがいなければ真面目に修行を積めるというのだな?」
 
 
 キールはカエルの意外な言葉に内心驚いた。だが、売り言葉に買い言葉である。
できるもんならやってみろという気持ちが先行した。
 
 
「お!?、おぅよ!」
「……わかった。だが、約束しろ。お前達は未来へと続くガルディアを守る戦士だ。
 しっかり修行を積み、大切に守るんだ。…わかったな?」
 
 
 カエルはキールの目を見て離さずに言った。キールはその表情からカエルがとて
も真剣に話していると感じた。それでも、ここで素直になる気にもなれなく、カエ
ルが見据えるなら、絶対にこっちも目を離してやるものかと思っていた。それはそ
のまま言動となって現れた。
 
 
「…んなこと、言われなくても分かってるさ!
 …それより、あんたは守れるのかよ?まさか、命令して自分はできねぇなんて言
 わせないぜ。」
 
 
 カエルはキールの質問に対して後ろに振り向き静かに言った。
 
 
 
「……騎士に二言はない。」
 
 
 カエルはそういうと医務室から出て言った。
 キールはその後ろ姿を見届けると、唇を噛んで下を向いた。
 
 
 
 
 
 
 …時計の針の進む音が耳につく。 
 
 
 
 
 

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