クロノプロジェクト正式連載版

第6話「不本意3」
 
 
 
 キールはすぐに王宮へ志願すべく支度をした。しかし、両親には反対されており、
家出同然の闇夜の中の旅立ちだった。夜の冷え込みが厳しい。キールはこの様な深
夜に街の外に出たのも初めてならば、他の街へ行くことも初めてだった。道は街道
があるからわかってはいたが、いつ魔族が襲ってくるかわからぬ恐怖は辛かった。
 
 
「(出ないでくれよ。)」
 
 
 キールは祈る様な気持ちで歩いていた。橋に近づいて来てだいぶ周囲も草原が広
がりだす。風が広大に続く草原を翔る。寒さも幾分和らぎ心地よい風だ。夜空には
無限に広がる星が瞬き、光の筋が走る。
 
 
「(奇麗だな。空が奇麗だなんていつ振りだろう…)」
 
 
 そんなことを思いつつ歩いていると、風に変な音を感じる。音は明らかに自分と
は別の存在の影を含んでいた。
 
 
「(いる!?…1、2……3)」
 
 
 キールは努めて冷静に行動した。さりげなく木刀に手を掛けようとした時に気配
達はざわめいた。緊張が体中からどっと汗を噴き出すことを促した。
 
 
「(げ、気づかれた!?)」
 
 
 キールは振り返り素早く木刀を構えた。背後に潜んでいた影達が一斉に跳躍して
姿を現す。月明かりで若干見えるその姿はオーガンだ。手にはでかい木槌が握られ
ている。
 
 
「(まじかよ…、火、火…)」
 
 
 額から汗が流れる。オーガン達はじりじりとにじり寄る。キールは必死に火を出
せるものが無いかと片手で服を探った。しかし、そんな気の利いたものはあいにく
持ち合わせていなかった。そうこうしている内に背後に回っていたオーガンが先に
攻撃を仕掛けて来た。
 
 
「うわぁ!?」
 
 
 幸い木槌の重みか動きは鈍かったのでよけられたが、それを皮切りに本格的に他
の2体も仕掛けて来た。必死によける。こんな攻撃をまともに受けられるとは到底
思えない。だが、避けようにもあまりに間合いが無さ過ぎる。正面のオーガンの木
槌が迫る。慌てて木刀で受け流そうと両手で構えた。もう、祈るしかなかった。し
かし、想像していた衝撃は伝わってこない。
 
 
 
「オゴォオォォォォオオオ!?!」
「!?」

 
 
 オーガンの一体が突然叫んで顔に手を当ててぶっ倒れた。
 新たな影が風を巻く。
 
 倒れた仲間を見てオーガンがいきり立ち周囲を駆ける風に向けて攻撃を仕掛ける。
 だが、風はそんなものはなかったかのように颯爽と駆け抜けて次々にオーガン達
を仕留めて行った。それはまさに風の流れの様に夜の静けさの中を駆け抜けていた。
 キールは驚くばかりだった。その動きは神業の様に無駄が無く、的確にオーガン
の弱点を捉えていた。その技はマニュアル通りの戦術ではなく、その場の地形条件
や相手の武器の特性を見極めた上での素早い判断の技だった。
 
 
「(すげぇ…そうか、柄から折って…)」
 
 
 3体全てを倒すと、ようやく影が目前に現れた。
 それはさらに驚くべきものだった。
 
 
「…怪我は無いか?」
 
 
 胸には勇者の証であるガルディアン・バードの刻印…勇者バッジが見える。
 目前には自分が最も会いたい相手が風にマントを揺らし立っていた。
  
 
「サンドリノの子供か?……こんな時間に歩くとは不用心だな。
 サンドリノに戻るなら一緒にどうだ?」

 
 
 突然のことに何を話していいのかわからないキール。カエルは首を傾げてみてい
る。だが、言葉を出そうにも言葉にならない声しか出せなかった。

 
「あ、あぁあ………。」
「フ、驚いたか。大丈夫、取って食ったりはしない。俺も人間だ。ま、こんな姿に
 変えられちまったがな。信用出来ないなら好きにするが良い。どうする?」
「え?…オ、オレ、王宮に志願しようと思ってるんです!でも、親に反対されて…」
 
 
 そういうと困った様な顔をしているキールにカエルは静かに優しく話しかけてき
た。暖かい声。でも、…どこかに寂しい気配も感じる。
 
 
「…そうか。悪いが先ほど少し様子見させてもらった。良い筋はしている。橋はす
 ぐだ。ガルディアに入ればお前なら戦えるだろう。…気をつけろ。」
 
 
 そういうとカエルは風の様に夜の闇に消えてしまった。
 キールは呆然としばし立ち尽くしていた。体は興奮で震えが止まない。
 
 
 
「………すげぇ。すげぇ!すげぇ!!!」
 
 
 
 夜風が優しくキールを包んでいた。胸には熱い高揚感がわき上がる。
 …再びガルディアへの道を歩き始めた。
 
 
 
「………さん、キールさん、キールさん?」
 
 
 同僚の呼びかけに記憶の底から我に帰るとキールは言った。
 
 
「…お前ら、明日からカエルはいねぇが、カエルがいなくなった途端に駄目になっ
 たとか言われねぇ様に朝4時から訓練だ。覚悟しておけ!」
「そ、そんな!?キールさん?」
「問答無用だ!」
「は、はい!」
 
 
 
 
 …カエルはその後、静かに旅だった。
 
 
 城を出てから改めて王妃が渡した文書に目を通すと、どうやら国王夫妻はカエル
の思惑を見抜いていたようだった。カエルは改めて二人を尊敬していた。
 
 リーネからの文書は現代でいう小切手に相当するものだった。国王夫妻はその文
書を出すことで王国がカエルの支出1万G分を肩代わりするという内容を書いてい
た。また、カエルが諸国を旅しやすい様にガルディア王直々の通行許可書が裏に書
かれていた。
 王はカエルが城を出てからこの文書を廃棄することはわかっていたので、裏に関
所の通行許可書を書くことでうかつに捨てられないように考えていたのだった。
 
 …二人に感謝し、南への道を歩いて行った。

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