クロノプロジェクト正式連載版

第11話「お化けカエルの森-前編」
 
 
 うやく最初の目的地である、昔住んでいた通称「お化けかえるの森」へ二人
はやってきた。
 
 
「ここがそうかい?」
「あぁ。」
「なんだか随分じめじめしてやな所だねぇ。あ、そうか、あたしの感覚で考えちゃだ
 めなのね。」
「……。」
 
 
 スプリガンの言う通り、森は薄暗くじめじめとした湿気が充満し、地面も緩くぬか
るんでいた。南方に位置するお化けカエルの森は熱帯雨林のごとくうっそうと茂り、
普通の人間の感覚ではここの景色はともかく、湿気は「やな所」と感じても不思議で
はない。
 
 カエルはそのまま何も言わずに奥へと進んでいった。スプリガンも少しカエルを気
にしつつ一緒について行った。…すると奥の方で何やら人の気配がする。
 
 
 
「…くそ!カエルの分際でてこずらせやがる!ガンズ!!」
「わかってるよ!ウッズのアニキ。しかし、何匹いやがるんだ?倒しても倒しても切
 りがねぇぜ。全くこんなだから、街の奴らも不安がるってもんだ。」
「全くだ。さっさと片付けるべ!オラ、こげなじめじめした所いやだべ〜。」
 
 
 突然ウッズはゴンの頭を拳で叩いた。その反応に抗議の表情で訴えるゴン。
 
 
「ゴン、お前は泣き言が多過ぎるぞ!」
「痛ぇべ!だってウッズ、オラ怖いべ。」
「チッ、それでも男か!」
 
 
 奥では人間達が蛙狩りをしていた。どうやら賞金稼ぎらしく、彼らは蛙達を狩るこ
とで稼ごうとしているようだ。しかし、カエルは人間よりむしろ蛙達の行動に疑問を
感じた。
 
 
 …何故、ここでなくてはならないのか?
 
 
 この様な危険な場所ではなく、違う平和な土地へ移り住めば良いところを未だに何
故彼らは住み続け、しかも、圧倒的力の差の有る人間を相手に闘い続けているのか。
カエルにはどうにも理解できなかった。だが、止めねばならないとも感じていた。
 
 
「困ったねぇ。あんたが出て行ったらカエルの大将みたいにされちゃうねぇ。」
「…放ってはおけないだろう。」
「フフフ、そう言うと思ったよ。あんたはホントにお人好しだね。
 でも、このままじゃパレポリでの対処がちと大変だからね…」
 
 
 スプリガンはカエルにヒソヒソと何か作戦を伝える。カエルはスプリガンの作戦に
静かに了解し、頷いた。
 
 
「………わかった。」
「さ、暴れてきな。」
 
 
 蛙達は人間達を奥へと進ませないように必死で闘っていた。彼らは何かを守るかの
ように闘っていた。
 
 
「グワッゴ!グワッゴ!」
 
「ハハハ、だいぶ数も限られてきたみたいだぜ。」
「あぁ、品切れの様だ。」
「もう少しでウチさ帰れるべ。」
 
 
 人間達は、もう一追いすれば蛙達を捕獲出来るとあって鼻息が荒い。3人はそれぞ
れに捕獲の用意を整え、武器を構えた。 
 
 
 
「…そこまでだ!」
 
 
 
 カエルが颯爽とジャンプして降り立ち、蛙達の前で守りに入る。人間達は突然の蛙
男の登場に驚いていた。
 
 
「うぉ、親玉の登場か!こりゃボーナスが弾むねぇ!」
「アニキ、なんか強そうな剣とか持ってるぜ。」
「…オラどっかで見た気もする…どこだったべか?」
 
 
 ウッズが喜ぶ。
 ガンズはそんなウッズとは裏腹にカエルの持つ剣を見て不安を感じた。
 ゴンもまた、カエルの姿を見て過去の記憶を探っている。
 そんな二人をみてウッズは臆病な乗りの悪い奴らだと思いながらも、二人の気分を
払拭する様に強気に言うウッズ。 
 
 
「…フ、ま、どんな奴でも所詮は蛙さ。」
 
 
 ウッズはそういうとガンズに目配せした。ガンズがそれをみてすぐに大きな剣を構
えて突進してくる。カエルはその剣を鞘に入れたままの剣で正面から受けとめて弾き
返す。そして、続けざまジャンプして肩をみね打ちした。ガンズは肩にもろにくらっ
て剣を落とす。そこにすかさずカエルは着地してからがら空きの守りのガンズの腹を
蹴飛ばした。ガンズは腹を押さえてそのまま倒れ気絶した。
 
 
 
「おいおい、蛙相手に気絶する馬鹿がいるか………!?」
「…ただの蛙と馬鹿にすると火傷するぜ。」

 
 
 
 カエルはそう言うやいなやウッズのもとにジャンプして迫る。ウッズは剣を構えて
カエルの剣を受け止めた。カエルはウッズが予想外に出来るので驚く。
 
 
「やるな。」
「フン!」

 
 
 ガンズが笑みを浮かべて剣を振るうが、その笑みはすぐに消えた。
 
 
「な!?」
 
 
 カエルの姿が突然目前の視界から消えた。どこだと上を向いた瞬間、後ろから声が
した。
 
 
「ここだ。」
「ッチ!」

 
 
 ウッズは左手でナイフを抜き、後ろに振り向きカエルに突き出す。しかし、空振り
に終わった。またも動いた時には既に消えていた。ウッズは今度は前に回られたと思
い振り向くと、そこにもいなかった。何処に消えたのか焦るウッズ。そこにカエルか
ら声をかけられる。
 
 
「ここだ。」
 
 
 なんとカエルは自分の目前にしゃがんでいた。だが、気付いた時では遅かった。
 
 
ぁ!?はぁあああああ!!!」
 
 
 鈍い音と共に風が昇った。カエルがウッズの懐にジャンプし拳をくぼませたのだ。
 突然の激しい痛みと共にウッズは空高く舞い上がる。ウッズの体はそのまま空中か
ら自由落下しガンズの上に重なる様に落ちた。…ウッズとガンズの悲鳴が聞こえる。
 ガンズは気絶から意識を取り戻したは良いが、激しい痛みとウッズの重みで伸びて
いた。
 
 
「アニキィ!?!あぁ、助けてくんろぉ〜!神様〜〜〜〜!!!!」
 
 
 ゴンはカエルのあまりの強さに腰を抜かして、その場にへたり込んで神に祈り始め
た。
 カエルはそれを見て半ば複雑な思いを感じつつも、ゴンの始末をつけようとしてい
た。カエルがゴンに向かって一歩一歩前進する。
 …だがその時、ゴンの後方から一人の若い女の剣士がゆっくり歩いて現れた。
 
 
 
「…!……何者だ。」
 
 
 
 カエルが女剣士に対して低く言った。その声にはまだ敵意は無く、ただ警戒してい
ることは読み取れる声だった。
 ゴンは突然現れた女剣士を見ると、直ぐに救世主とばかりに飛びついて裏に回り、
助けを請う。
 
 
 
「あぁ、助けてくんろぉ〜!あの化け蛙は滅法強いだ!」
「…フフン、あたしに任せておきなよ。ただし!…あたしの腕は高くつくよ!」
 
 
 女剣士が不適に笑みをたたえて構える。
 カエルも相手を相当の使い手と見て剣を抜いた。
 
 
「…ほう、あたしには剣を抜くのかい?」
「……奇麗な薔薇には刺があるからな。」
「フフン…カエルにしておくのは勿体ないねぇ。」
 
 
 女剣士はそう言うとカエルに向かって目にも止まらぬ早さで切りかかる。
 カエルはその動きを察知して、横に円を描く様な動きで避ける。女剣士はその動き
さえも予知して、笑みを浮かべながら動き終わったカエルのもとに剣を振り降ろす。
 カエルは咄嗟の動きでぎりぎりそれを交し後方へ後退。だが、女剣士はそのままカ
エルの後退した方向に剣を繰り出しながら進み、カエルの自由な動きを阻む。
 
 
「グッ!?」
「ウフフ!」

 
 
 幾度か互いの剣が金属音を鳴らし交わう中、女剣士の予想外の腕の良さにカエルは
油断したことも有り、若干の隙を見せてしまった。
 相手はその隙を見逃さなかった。
 
 
 
「そこ!がら空きよ!」
「グゥ!!!」

 
 
 
 女剣士はそういうと思いっきり打ち込み、蛙の剣を空高く弾き飛ばした。
 先程の三人が草葉の陰から身を乗り出し、女剣士の強さに驚きの声を上げる。
 
 
「おぉ!……すげぇ。」 
「当り前さ。それより、あんた達、あたしに払う金はあるんだろうね?無い場合の覚
 悟はしておいた方がいいだろうねぇ〜?フフフ。」
 
 
 女剣士が草葉の影に隠れる3人にさらりと恫喝する。
 剣士の腕が確かなことを見て震え上がった三人は、ひそひそと手短に会話を交わし
た。どうやら3人の答えは一致していたらしい。
 
 
 
「逃ぃげろぉ〜〜〜〜!!!」
 
 
 
 人間達は散り散りになって森から逃げ出していった。
 
 
 蛙達は女剣士への敵意を現にし、カエルの背後から子ガエルまでが石を拾い投げつけ
始める。女剣士はそれらの石つぶてを軽く剣で弾きながら、左腕は腰に手をあてて立っ
ていた。
 カエルは素早く弾かれていた剣を拾い、構え直し言った。
 
 
 
「………お前は一体何者だ?」
 
 

 女剣士はカエルの問いに真面目な顔をしていたが、思わず耐えられないという風に
笑い出した。
 
 
「アッハハハハ、あたしかい?やぁねぇ、やぁねぇ!あたしだよ。あたし。」
 
 
 そう言うと女剣士は何かのまじないの構えをすると、突然全身が煙に覆われた。
 煙が晴れたそこにはスプリガンの姿が有った。
 蛙達もどよめく。
 
 
「お、おい、変身なんて出来たのか!?それならそうと教えてくれたら良いだろう!
 オレはてっきりそのままの姿で現われるもんだと……」
「アハハ、敵を欺くにはまず味方からって言うじゃないかい?教えてたらさっきみた
 いに真剣に剣を振るうつもりはなかったんじゃないのかい?」
「…確かにな。…はぁ、かなわん。」
「そーそー、何事も年長者を立ててりゃいいのよ。フフフ♪」
 
 
 スプリガンは得意げに鼻歌混じりに、カエルに先ほどの人間達の無様さを笑って話
していた。
 そこにこの森の主と思われる者が近づいてきたので二人は振り向いた。その主は他
の蛙達とは違い、大きさもカエルとほぼ同じ大きさで随分としっかりした印象を受け
る。しかし、相手側はというと、少々自身無く恐る恐るといった雰囲気だ。
 
 
「あ、あの…、あなた方はカエル様とスプリガン様ケロね?」
 
 
 カエルとスプリガンは頷いた。
 しかし、カエルは主蛙の言葉に違和感を感じた。
 
 
「オレのことを様扱いとは、どういうことだ?オレはあなた方の敵だったはずだ。」
「…あの頃の我々は今の人間のことを決して批判できた立場に無かったケロ。
 あの頃あなたは虐げられた人間を守ったケロ。でも、今は昔の様に私たちを守って
 くれたケロ。あなたは人間も魔族もなく、沢山の善良な命を守る勇者だケロよ。」
「…ほぅ、魔族の中にも随分進歩した奴らがいる様だね。」
 
 
 スプリガンが感心した様に言った。
 カエルは自分に対する気持ちはわかったが、それでも疑問は湧く。
 
 
「…昔から感じていたが、何故ここから出ようとしない?」
「ここは我々の家ケロ。ましてや、この先は我々の守護者であった水神様の使いが眠
 る地ケロ。我々は常に彼と共にあったと我々の伝説にあるケロ。我々はここと例え
 心中しても残る運命なのだケロ。」
「…そうか。」
 
 
 カエルはそれを聴いて納得するしか無かった。確かに故郷を捨てることはできるも
のではない。…どんなに遠く離れても、遠い空の地に親友が眠る様に。
 
 
「ところで…あいつらは最近よく来るのか?」
「そうだケロ。昨日も被害にあって困ってるケロ。しかし、あなたはこの村が目的で
 来たわけではないケロね?」
「あぁ、だが、昔住んでいた頃の荷物の整理がしたくてな。しばらく滞在しようと思
 っている。」
「はぁ、良かった。あたしも長旅で疲れたからねぇ。老骨には堪えるよ。」
 
 
 カエルの言葉に意外にも蛙達より先にスプリガンが喜ぶ。それを聴いて笑うカエル。
主蛙も嬉しそうだ。
 
 
「はは、というわけだ?宜しく頼む。」
「有難いケロ。我々はお二方を歓迎するケロ。」
 
 
 長老は二人を歓迎するパーティーを開き、村では久々の大宴会となった。
 蛙達は合唱を披露したりと宴を盛り上げ、二人もその宴に参加して大いに楽しんだ。
 
 
 
 
 
 …………その夜
 
 
 
 
 ガササ…カチャ、………タッタッタ…
 
 
 
 カエルは寝床から起きて、静かに歩いて家から出て行った。
 
 
「?…あらあら、こんな夜中に何かしらねぇ。
 フフフ、悪い悪いと思いつつ、見たいのが人情さねぇ。」
 
 
 スプリガンも後をそっと追っていった。

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