クロノプロジェクト正式連載版

 第15話「グランドリオンの導き」
 
 
 カエルは、サイラスの眠る墓地のある勇者の墓へ来ていた。
 
 
 勇者の墓は魔王戦争時代に亡くなった者達を奉った城だが、元々はチョラス大陸の
古代文明が領有していたものだった。堅固な城だったのでこの城を拠点として魔王戦
争時代は闘ったが、魔王の度重なる攻撃で多くの死者を出した。
 
 チョラスの民は一時は街を放棄してこの城に篭り闘うが、クロノ達によって魔王軍
が落とされることで、街に大きな被害が出る前に運良く終戦を迎えることができた。
 以後、ここには多くの死者が出たことから魔族の者に再び死者の躯を再利用されぬ
様に勇者サイラスの遺物を奉ることで、この城を魔族から保護された墓地となるよう
にした。
 
 しかし、サイラスの無念の魂が世を彷徨い、その魂を利用した魔族がまだ生き残っ
ていたために、戦争後でもここは一時は魔王軍の躯兵が闊歩する城となっていた。だ
が、それもクロノ達の努力によって魂も浄化され、今は静かな森の中にたたずむ墓地
となっている。
 
 
「…変わりはないようだな。」
 
 
 カエルは城の中に入ると、すぐ左側の通路を下へ下へと進んで行った。その先に待
つのはカエルの親友であり、人々の希望としてグランドリオンを振るった勇者、サイ
ラスの墓があった。
 
 
 
「…久々だな。
 …世界は君が求めた平和で満たされている。
 
 だが、…俺はこの平和を、…素直に受け入れられない。」

 
 
 カエルはグランドリオンを抜く。剣は青く透き通り、微弱な輝きを帯びている。
 
 
「…力場の関係か?こいつが光るのは珍しいな。
 おい、お前らたまには顔を見せたらどうだ?」
 
 
 剣がその問いかけに応える。
 グランドリオンは光ると、その化身であるグランとリオンが飛び出してきた。
 
 
「やぁ、カエルさん!久しぶりだね!」
「オレ達に何か用か?」
「…用は無い。ただ、話すために呼んだだけだ。」
 
 
 カエルの素っ気ない反応に、グラン飛び跳ねながらが言った。
 
 
「 あんたがこの時代に来てから迷いを感じていたのはよく知っているぜ。しかし、
 その迷いの類は誰もが感じるものさ。どんな戦争でも勝者と敗者が生まれる。そし
 て、その結果として一時は支配者と隷属者の関係が生まれるもんさ。
  それを悩んでたら闘うことなんて出来やしない。あんたは、闘いの末に起こる結
 果への責任は持って闘ってきたんじゃなかったのかい?」
「……まぁな。」
  
 カエルはグランの意外にも的確な言葉に驚いた。反論する言葉も出ず、ただ同意の
言葉が出た。
 グランはそんなカエルに、陽気に続けて言った。
 

 
「なら悩む必要はない。ま、もちろん、あんたの立場は理解するぜ?でもよ、あんた
 は前の使い手さんよりも神経質すぎるぜ。」
「前の使い手!?…お前達、サイラスのことも知っているのか?」
 
 
 グランの言葉に再度驚くカエル。その反応に二人は楽しそうだ。
 

「知ってるぜ。全ての使い手のことを覚えているさ。」
 
 
 グランはえっへんと自慢げに話していた。そこにリオンが話の続きを言う。
 
 
「でもね、僕らと常に話せる人は、歴史上カエルさんを入れて3人だけだよ。サイラ
 スは短い間だったけどね、彼が亡くなるちょっと前くらいには何とか話せたんだ。」
「おい、リオン、言うなよぉ!」
「僕の分も残してくれたっていいじゃないか〜!」
 
 
 二人がいがみ合う。そんな二人に少々呆れつつも問うカエル。
 
 
「…サイラスはどんな奴だった?」
 
 
 カエルの問いに対してグランが先に答える。そこにリオンも負けじと話す。
 
 
「あいつはお前と正反対の性格だったな。細かいことを気にしない無頓着な奴で、
 まぁ、例えるならツンツン頭の兄ちゃんに似てたな。」
「うんうん、彼は良く言えば勇気の有る人だけど、無謀なくらいに命に対する考えが
 薄い人だった。」
「…確かにあいつらしいな。」
 
 
 カエルは二人の言葉を聞いて思わず微笑んだ。
 グランはそんなカエルを見て、悪戯心が出て言った。
 
 
「まぁ、あんたみたいな使い手は前にもいたよ。」
 
 
 グランが思わぬことを話したので興味が湧くカエル。
 グランはニヤリとして得意げに再び話しだす。
 
 
「いつ頃の奴だ?」
「一番始めの奴だったかな。あいつも優しすぎる奴だという覚えがあるぜ。」
「そうそう、でもあの頃は派手に闘ったね。」
「まぁな。ドリーン姉ちゃんもいたし。ん?時間の様だな。ま、頑張れよ。俺達は出
 られなくとも、あんたのことを常に見ているんだからさ。」
「そうだよ。頑張って!カエルさん!」
「じゃ、またね〜〜〜!」
 
 
 グランとリオンは剣の中に帰っていった。
 カエルは深くため息をついて呟いた。
 
 
「…来た甲斐はあったか。」
 
 
 剣を素振ってから鞘に収め、そのまま館を後にした。
 
 
 
 
 今後の見通しを立てていなかったカエルは、この後どこに行くか考えながら森を進
んでいた。すると、前方で何か騒がしい声がする。その声は若い男達の声だ。いや、
中には若い女性の声も聞こえる。
 
 
 
「…おとなしくしろよ!」
「俺達が最高の楽しさを教えてやるからよぉ。」

 
 
 
 3人の男がスプリガンを襲っていた時の様に、魔族の女性をよってたかって襲って
いた。女性は必死に逃げようとして男達の手を払いのけるが、執拗に迫っている。し
かし、何よりカエルが目を奪われたのは女性の姿だった。女性は桃色に美しく輝く若
干ウェーブの入った長い髪を伸ばしており、その容姿は息をのむ程の美しさだ。
 その女性を、長髪でブロンドの若い男が腕を掴み捕まえる。
 
 
「キャァ!離しなさい!!」
「そんなに毛嫌いするなよぉ。良いだろう?気持良くなるんだからさぁ。」
 
 
 長髪ブロンドの男は女性を自分のもとに引き寄せ言った。
 そこに背後から声が上がる。
 
 
「やめろ!!!」
 
 
 全員が振り向くと、そこには一匹の大きな蛙男が立っていた。
 
 
「なんだ?おめぇは!化け蛙か!」
「おい、お前、コイツを呼びやがったな!」
 
 
 長髪ブロンドの男が女性に怒鳴る様に言った。女性は必死に逃げようと抵抗を試み
るが、しっかり腕を掴まれどうにも逃げられない。
 青い髪をした虎刈りの男がそんな状況の有利を見て、見下した様に蛙に言った。
 
 
「ハッ、蛙ごときがでてきたからってどうにでもなる様な状況じゃ
 ……イデデデデデ!?!うぉああああああ!!?」
 
 
 カエルは青い髪をした虎刈りの男の腕を掴んでひねり、そのまま後方へふっとばし
た。男は後方の木に叩き付けられて悲鳴を上げる。
 
 
「ギャァァァアアアア!!!」
「こ、こ、コイツ、強ぇぞ!」
 
 
 カエルはこの程度で吹っ飛ぶ程軟弱な男かと思うと、情けなさと共にそんな半端者
の所行に怒りがこみ上げ叫ぶ。
 
 
「お前ら!大の男がよってたかって恥ずかしくないのか!
 人間の風上にも置けねぇ奴らだ!!恥じを知れ!」
「は?こいつ何かっこつけてんだ?お前は人間じゃねぇ!
 カエルだろ!よく自分の体見てから言えっつぅんだ!」
 
 
 坊主頭の男がそうカエルの言葉に反応すると、先ほど飛ばされた虎刈りの男が立ち
上がってよろつきつつも、悪態を吐いて武器を持って近付いてくる。
 
 
「化け蛙め!オレが退治してやる!」
「……く、甘くみられたもんだ。」
 
 
 虎刈り男がカエルに切りかかる。カエルはその動きをするりと交わすと男の手首を
手刀で軽く叩き、剣を落とさせると素早くその剣を奪い、虎刈り男を足で思いっきり
蹴り飛ばし、近くの木にぶつけた。
 だが、虎刈り男はそれでも気を失わずに立ち上がってくる。
 
 
「…ほぅ、オレの蹴りを食らって気を失わないとは大した奴だ。」
「ぜってぇーやる!」
 
 
 その時、背後から坊主頭の男が剣を構えて突進してくる。
 カエルはその動きを素早く察知して交わしつつ長髪ブロンドのもとに寄り、剣の柄
で強く叩き飛ばし女性を確保。そのままの勢いで奪還しようと女性の腕を掴む虎刈り
男の腕を捕まえ、強く鷲掴みし痛がって女性の腕を離した所を蹴り飛ばす。
 丁度虎刈り男は先程叩き飛ばした長髪ブロンドの男のもとにぶつかる様に蹴り飛ば
され、衝突によって強いダメージを負う。そこに止めとばかりに、立ち上がった二人
の間に奪った剣を投げた。その剣は二人の前を通り過ぎて木に突き刺さった。
 カエルはこれで二人は戦意を喪失するだろうと思っていた。しかし、二人は戦意を
失わずによろけつつ互いを支え合いやってくる。
 
 
「…思ったより骨のある奴らだな。」
 
 
 カエルがそう呟いた時、長髪ブロンドの男が剣を構えて突進してくる。
 カエルは剣を構えて長髪ブロンドに対峙しようと思った時、後方の虎刈り男がボウ
ガンを構え、女性に向けて矢を放った。
 
 
「危ない!!」
 
 
 カエルが慌ててグランドリオンを抜き矢を弾く。
 虎刈り男は続けざまに矢を射続るので、カエルも防戦一方になっていた。
 その時背後に廻った坊主頭がカエルに切りかかる。
 
 
「キャァ!」 
「ぐああぁぁぁ!!!」

 
 
 女性が悲鳴を上げる。
 カエルは咄嗟に避けたが、それも遅く、深く切られ鮮血が飛ぶ。
 カエルは怒り、剣の柄で坊主頭を強く叩き飛ばした。だが、そこに虎刈り男が矢を
射ってきたために、剣で矢を払えなかった。
 カエルは虎刈り男の矢を、女性を庇い自分の身で全て受け止めた。鮮血が流れ落ち
る。女性がその惨状に再び悲鳴を上げた。
 人間達は勝ち誇った様にじりじりと二人に近づくいてくる。
 カエルは血塗れになりながらも剣を構え、目を閉じてぶつぶつ何かを言い始めた。
 
 
「ざまぁみろ!人間様に逆らう奴はみんなこうだ!!!」
「へ!蛙野郎、観念したのか念仏でも唱えてるぜ。」
「ん?まて、…おい!」

 
 
 カエルの体が青く輝く、辺りが青い輝きで染まり、グランドリオンがその光りを次
々に吸収してゆく。
 
 
「な、なんなんだ!?!」
「ち!おっぱじまる前にヤルのみ!!!」
 
 
 坊主頭が突進してくる。
 虎刈り男も長髪ブロンドも坊主頭に続いてカエルに向かって突進してくる。
 カエルはその気配を感じて目を開けると同時に、剣を半円を描く様に一閃する。す
ると、剣先から水の刃が生じて半円形範囲に向かって水の刃が放たれた。その刃は突
進してきた人間達に向かって飛び、次々に両断した。
 
 人間達の最後の叫びが辺りにこだまする。
 
 人間達の死体が辺りを赤く染め、その血飛沫はカエルの姿をより赤く染めた。
 カエルが剣を収める。
 
 
「…大丈夫…か?」
「え!?えぇ。」
「………そうか。」
 
 
 カエルは女性の無事に安堵したのか、そのままそこに崩れ、倒れた。
 次第に視界がぼやける。
 陽の光遠退いて行く。
 
 
「(…へへ、こんな…最後か…)」
「あ、あの!しっかりして!」
 
 女性が必死に呼びかける。その目からは涙が流れていた。
 
「(…体が冷てぇ。何を言ってるんだ?…そんなんじゃ、わからないぜ。)」
「ねぇ!しっかりしてよ!ねぇ!」
 
 カエルの視覚から完全に光が消えた。もう、彼女がどんな表情をしているの
かもわからないが、そんなことも意識の中から消えようとしている。
 
「(…サイラス。来てくれるか?)」
「ねぇ!あぁ、あぁ、
 ………………………いやぁああああ!!!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 数日後
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「……う、………ん!」
 
 
 カエルは静かに目を開けた。
 そこは見慣れぬ小屋の中。あの後どうなったのかわからないが、どうやら自分が生
きていることはわかった。その時、前方のドアが開く。
 現われたのはあの時の女性。
 
 
「よかった!気が付かれたのですね?もう、一時はダメかと思いました。でも、何と
 か傷を塞ぐことができたので、あとはあなたの気が付くのを待っていました。」
 
 
 カエルはよく見ると、自分の体の至る所に包帯が巻かれていることに気付く。彼女
が巻いてくれたのだろう。どうやら、彼女に命を救われたらしい。
 
 
「…心配をかけて、済まない。有り難う。」
 
 
 そう言うと起き上がろうとするカエルだが、鈍い痛みが全身を走る。
 女性はそれを見て静止する様にカエルの胸に手をそっと置き、横になる様促し言っ
た。
 
 
「…いえ、私の方こそお礼を言わせて下さい。本当に有り難うございます。」
「礼などとんでもない!女性を守るのは男の義務です!俺はそれを全うしたのみ。
 どうか、気にしないでください。」
 
 
 カエルは女性の感謝の言葉に逆に謝りたいくらいだった。結果的に守ったとはいえ、
人間のしている事は決して誇れるものではない。
 
 
「…無理しないで。あなたは人間。姿は違えども、私にはあなたの姿がわかる。何故、
 あなたは魔族の私を助けようと?…あなたにとって私達はその姿に変えた憎き存在
 のはず。」
「…なんだ、わかっていたのか。正直、俺は君に謝りたいくらいさ。」
「どうして?」
「同じ人間として…恥ずかしい。魔族の気持ちが痛い程分かったんだ。今の人間に正
 義など無い。」
 
 
 カエルの言葉に女性は穏やかな顔で言った。
 
 
「…そう。お可愛そうに。」
 
「可愛そう?」
「えぇ、やはり、私達の側が謝らなくてはならないわ。あなたはその姿でなければ、
 人間として当然受けるでしょう栄誉も、何もかもを奪われたのですから。」
 
 
 女性の言う内容は確かにカエルが受けられただろうものだった。しかし、カエルに
は興味のないものだった。
 
 
「ははは、そんなもの、俺は端から興味ないさ。俺はむしろ魔王の奴に感謝してるく
 らいだぜ。………所で、その、君の名は?あ、俺の名はグレン。だけど、カエルで
 通っている。どっちで呼んでも良いぜ!」
 
「…グレン、良い名前ね。私の名は…レンヌ。」
 
 
 
 
 その後、カエルとレンヌは一生を共にする誓いを立てて、お化けカエルの森へ住む
ことになった。


 

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