クロノプロジェクト正式連載版

第20話「再会」
 
 
 エルとレンヌは行き先は決めていた。
 
 この森から北上してゼナン砂漠の中央にあるオアシスの森は、フィオナとロボによ
って徐々に、太古の昔に生えていた木々を繁らせた奇蹟の森を形成しだしていた。
 
 魔王戦争からの5年の月日で驚異的成長を遂げた森の規模は、既に一つの街程度の
大きさに成長していた。周囲もステップが広がり始め、降水量も少なかったのがまる
で嘘の様に、空には次第に雲も現われ、定期的な雨を西はミスリルの山々から運んで
きていた。
 
 カエルは友人である彼らのもとで、共に暮らしながら森を再生させるという、フィ
オナ夫婦の夢を手伝うことを考えていた。
 
 フィオナの家は昔と同じ場所にあった。しかし、5年前とはがらりと雰囲気が変わ
り、家の隣には大きな泉が涌き、小さな川の流れを形成し、地面には青々と草が繁り、
森の中にたたずむ一件屋という佇まいだった。
 そのあまりの早い変貌ぶりにカエルは心底驚いた。未来での成長を知っているだけ
に魔法の苗の効果は知ってはいたが、その本来の能力がこれほどまでとは思わなかっ
た。
 
 
 
「…美しい森、木々が輝きに満ちている。」
「あぁ、…とても5年前が砂漠だったとは思えない。」

 
 
 
 二人は小屋の前に立ちドアを叩く。すると聞き覚えのある返事がしてドアが開いた。
 フィオナはエプロンで濡れた手を拭いつつ、突然の訪問者出迎えた。そして、彼女
はその訪問者を一目見ると、目を輝かせて笑顔で言った。
 
 
「まぁーーー、カエルさん!お久しぶり!お元気でした!?」
「あぁ、フィオナも元気そうだな。」
「あら、そちらの方は?」
 
 
 フィオナはカエルの後方に立つ美しい女性を見て蛙に尋ねた。カエルはその問いに
後ろを振り向き言った。
 
 
「あぁ、オレの…妻だ。」
「…初めましてフィオナさん。レンヌと申します。」

 
 
 レンヌが赤らめながら挨拶をする。
 フィオナは一瞬声を詰まらせて驚いたが、直ぐにまた笑顔で言った。
 
 
「ふふ!おめでとう!」
 
 
 カエルも微妙に照れていた。その顔をみてフィオナはにんまりとして二人を家に招
き入れる。
 家の中はひんやりとして落ち着いていた。中に入ると美味しそうな香りが漂ってい
る。どうやら食事を作っている最中だったらしい。
 フィオナが足早に周辺の片付けを済ませると、二人を居間に招き椅子へ腰掛ける様
促した。二人はそれに従い座った。
 フィオナは、二人の対面に座り話し始める。
 
 
「おめでとう、カエルさん、それに、レンヌさん。
 お二人のご結婚を心から祝福しますわ!」
「ありがとう。フィオナ。」
「ところで、どうなさいましたの?あ〜、新婚旅行ね?やだ、突然だったから何も準
 備がないわ、後でマルコに街へ買い出しに行って貰わなくちゃ…」
 
 
 新婚旅行の話にややまた照れるカエル。
 そこを表情に出すまいと落ち着いて答える。
 
 
「…いや、それはもう済ませた。今日はここに引越したいと思ってきたんだ。
 どうだろう?俺達もこの森で暮らしても良いだろうか?」
「え?この森に住みたいと!?」
「…ダメか?」
 
 
 カエルの意外な申し出にフィオナは驚いた。二人はこの反応に内心ダメだと感じて
いたが、フィオナの反応はまたも予想外の反応となった。
 
 
「もう、私は大歓迎ですわ!ロボさんも喜ぶと思うし、なにより、この森を育てるに
 はまだ人が足りなくて困っていたのよ!」
 
 二人はこの言葉に安心したが、フィオナの話にはまだ続きが有った。
 
「…マルコも街の人にあたったんだけどね、全く興味を示して貰えなくて。だから、
 カエルさんの申し出を聞いたらきっと喜ぶと思うの。」
「何故相手にされないんだ?」
「それが…」
 
 
 
 フィオナの話によると、夫のマルコは出身であるサンドリノの街の友人や知人に森
を育てる話を持ちかけた。しかし、街の人々は手を貸したりはしなかった。
 なぜなら、砂漠化は今に始まった事ではなく、太古の昔から歴然として進む自然の
摂理であり、オアシスの森の消滅も魔王軍による影響があるとはいえ、進行が遅いか
早いかの違い程度のことにしか映らなかったためだ。
 その前提から判断されては、いくら実績を示した所で無駄な努力としか映らず、誰
もマルコに協力しようという者はいなかった。
 
 
「フフ、でも、カエルさんがいてくれれば大丈夫よ!
 なんてったって、この砂漠に巣くう怪物を倒したあなたがいれば、私達も心強いわ!」
「そうか。」
 
 
 カエルはフィオナの話を聞いて内心複雑なものを感じた。フィオナのしていることが
ここまで成功しているというのに、人々は今も手を貸さないという話は、何故か自分に
重なる様にも感じた。
 
 
「さーて、そうと決まれば今日は宴会よぉ〜!あ、レンヌさん一緒に料理しません?」
「えぇ、良いですよ。」
「フフ、あ、カエルさん、夫とロボさんはこの家の裏手の道の先の平原で木を育ててい
 るの。よかったらそちらでお話しされてはどうですか?
 …それとも、一緒にお食事の支度します?」
 
 
 フィオナの悪戯っぽい眼差しに、カエルは顔を伏せると言った。
 
 
「…レンヌを宜しく頼む。」
「フフ。いってらっしゃい。」
 
 
 カエルが立ち上がり出て行く。
 フィオナとレンヌは二人で顔を見合わせて微笑みながら、奥の厨房へ入っていった。
 
 
 
 
 
 
 カエルは、フィオナに言われた通りに家の裏の道を通っていた。
 森の中を進んで行くと次第に木々が薄くなり、道の向こうに空が見えた。
 
 森を抜けるとそこには若木が林立している。遠い向こうまで続く陽の暮れかけた空
の下、一人の男と見慣れたロボの姿があった。二人は黙々と植物の手入れをしている。
 
 カエルは懐かしい姿に思わず声が出た。
 
 
 
「おーーーい!!!」
 
 
 
 カエルの声が広い空に響渡る。
 その声に、遠くに見える二人はまずロボが気が付いた様でこちらを見る。その後す
ぐ男の方を向いたかと思うと再びこちらを向いて、二人で一緒にカエルの方へ歩みだ
した。
 カエルも手を振って二人に合図を送り、二人のいる方向へ歩いた。
 
 
 
「おぉ、ご無沙汰してマス。お元気でしたカ?」
 
 
 
 ロボがまずカエルに声をかけた。ロボは野良仕事の泥で、自慢の金色のボディが鈍
く光っていた。後から歩いてくるフィオナの夫、マルコも同様に泥だらけだ。
 
 
 
「懐かしい!カエルさん、よく来てくれた!あいつも喜ぶだろうなぁ!
 妻には会いましたか?」
 
 
 マルコも笑顔で迎えてくれた。カエルも笑顔で陽気に言った。
 
 
「あぁ、先に会ってきたぜ。ここへの道はフィオナに教わったんだ。
 本当に久々だなぁ!元気そうでなによりだ。」
 
 
 カエルがロボのボディを笑顔でパンパン叩いた。ロボは頭に巻いていた手ぬぐいを
解いて、頭を拭きながら言う。
 
 
「シカシ、あなたがコチラにおられるということハ、ラヴォスは倒されたのでしょう
 カ?…それとも、何らかの問題が発生シタのデスカ?」
 
 
 ロボの疑問に、ふと過去の記憶を思い出した。
 それはロボとは400年後の未来に会う事になっており、こんな中途半端な時代に会
うはずはなかったのだ。ロボとしてみれば問題発生を考えてもおかしくはない。
 カエルは笑顔で言った。
 
 
「大丈夫だ。何の問題もない。ラヴォスは既に俺達の手で倒したことになっている。
 未来は平和が約束されたんだ。」
「…オオ、ナント…それはウソではないのデスね?」
 
 
 ロボは興奮して頭を拭う速度が速まり、その場所が太陽の光を受けて反射していた。
そんなロボの不安そうな様子に笑顔で不安を与えない様に言った。
 
 
「用心深い奴だな。オレは嘘は言わん。安心しろ。」
「……良かった。未来が救われたと聞きマスと、ワタシもこれからの395年が楽し
 く過ごせそうデス。」
 
 
 カエルの言葉に、ロボは安心してプシューっと蒸気を吐いた。
 そこにマルコが困惑した表情で話の中に加わって来た。
 マルコから見て、ロボは勿論、カエルも不思議な存在だ。二人とも姿は自分と大き
く違うし、その内に秘める心と力は更に計り知れないものがある。だが、それを決し
て悪い形では使わない。そんな二人のことをとても尊敬している。それだけに、彼ら
の素性はとても知りたかった。
 
 
「…なんか、よくわからない話をされている様だが、あなた方は本当はどういう方が
 たなんだい?」
 
 
 マルコの質問に、カエルとロボは顔を見合わせると、蛙が笑ってマルコに言った。
 
 
「はは、オレ達はあんたと一緒さ。何も変わらないただの人さ。ま、オレはカエルだ
 けどな。」
「あの魔王さえも倒したあなた方のされることに間違いはない。きっとまた良いこと
 をしてくれたんだね?」
 
 
 マルコの輝かせた目に、カエルもどう言って良いか分からないが、出来る限り分か
りやすく伝えようとした。
 
 
「あぁ、そうだな。オレにも本当はよく理解できないことがいっぱいあるが、ただ一
 つ言えることは、誰にも侵されない平和への道が…俺達に約束されたということか。」
 
「平和か…良いな。…もう争いは沢山だ。
 オレも未来の子供達には、平和を見せてやりたい。」
 
 
 マルコに限らず、この時代に生きる者は皆「平和」を望んでいた。
 誰も憎しみ合わず、そして、傷つけ合わずに住む時代を作る為に戦争をする矛盾や、
様々な葛藤を胸に秘め戦場へ行き、多くの仲間を失う現実を目の当たりにしながら帰
還するやるせなさ。…もう、こんな時代を残してはいけないと深く心から思っている。
 
 ロボはこの時代の人々を観察する事で、様々な人間の葛藤を見た。その中で平和を
求める人々の苦しい状況を理解していた。彼らが何を求め、自分は何を成すべきか?
そこにあるのは一点の平和だけ。出来る限り明るい未来にしたいし、それを維持出来
るということを伝えようと考えた。
 
 
「大丈夫!私達ガ全ての命を大切に扱えバ、きっと世界ハ永遠に平和を謳歌するコト
 になるでショウ。」
 
 
 3人はしばらくその場で陽が沈むのを待つかの様に話続けた。
 それぞれのこの5年の思い出話しは、時が過ぎ行くことを忘れさせるようだった。
 その夜、フォオナの家ではフィオナとレンヌによるディナーを囲み、さらに長い夜
を徹して話に花が咲いた。

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