クロノプロジェクト正式連載版

第22話「新しき仲間2」
 
 
 傷した男と、その男の体を支える若い女。
 彼らは前方に見える森を目指して、闇夜の広大な草原を駆けていた。
 彼らの後方からは幾つかの松明(たいまつ)の明かりが見える。
 
 
「………ううっ」
「ギニアス大丈夫!?頑張って、あともう少しで森よ!」
 
 
 若い女にギニアスと呼ばれた男は、緑髪の人間の様な顔をしているが魔族の生まれ
で、世界中を魔王戦争が終わってからは放浪して歩いていた。
 彼は魔王戦争時代、魔王軍への武器を作る武器職人として戦況に大きく影響を与え
てきた。それだけに、自分の作り出した武器が生み出した結果には、なんとも言えな
い失望感が大きかった。
 
 
 武器は生命を活かすための盾、…それが彼の持論。
 
 
 あくまで戦場で散って行く仲間達の命が、少しでも長く保つのに役立てばと考えて
職人としての役目を全うしてきたつもりだった。
 だが、武器は結局は命を削る物。そして、戦とは命を削り合うことに変わり無く、
彼の哲学がどうであれ、それを持つ者が正しく扱わない限り意味はない。

 いや、例え正しく扱ったとしても、武器が命を削っていることに変わりないとも言
える。彼は職人としての自分の存在が重くなっていた。
 しかし、それ以前に、彼は釈然としない問題を抱えていた。
 

 …魔族とは何なのだ?
 
 
 この根本的な疑問は、どんな魔族の者も必ず一度は思い悩む難問。
 彼等は人間に怨まれる覚えすらなく、気付いた時には戦が宿命付けられて生まれて
きた。彼にはこの先をどう生きるかなんて展望もなければ、何を拠り所に生きている
のかさえ見えなかった。
 
 
 少なくとも魔王が掲げた「魔族を中心とした社会」が勝利の末に実現していたなら、
彼がここまで悩むことはなかったのだろうか?
 …今となってはわからないことだが、そう願いたい気持ちでいっぱいだった。だが、
それは理想ではないことが今はわかる。
 
 各地を歩けどもそこにあるのは憎悪…彼が安らげる場所は何処にもない。仮に彼等
が勝利したならば立場は逆転しただろう。
 だが、数の上で歴然とした差のある社会はきっとその矛盾をさらけ出し、真綿で首
を絞められるように危機が迫り、いつかその立場が今より惨い形で劇的に逆転しても
おかしくはないだろう。
 ならば、結果的にはこれで良かったのかも知れない…という思いも今はある。

 
 そんな風に考えられる様になったのは、彼の名を呼んだ女性…ハリーの存在だった。
 旅の途中に偶然の事件で知り合った人間の女性、ハリーと旅をするようになってか
ら彼は変わり始める。
 
 生きる幸せとは何か?…それは何かを守れることに他ならない。
 彼ははじめは何の気なしに彼女と付き合っていたが、次第に彼女といることが自分
にとってどんなに大切で、自分を生かしてくれていることかを思い知った。
 
 
 だが、それを知った今、安住の地として伝え聞く「フィオナの森」への道半ばで彼
は人間達に襲われ、ハリーを守り闘う中で深手を負い、意識が朦朧としつつよろよろ
と歩いていた。
 
 ハリーはそんなギニアスの腕を自分の肩にかけて一生懸命に森をめざした。森はも
う目前。しかし、追手の迫る早さがそれを上回っていた。
 
 
「いたぞ!」
 
 
 人間達がターゲットを見つけた。即座に背負う矢筒から矢を取ると弓を引き放つ。
矢はターゲットの二人の横を霞め飛んで行った。
 

「キャァァアアア!?!」
 
 
 追われる者の1人が叫んだ。その声は女性のもの。もう一人が女性の体を守る様に
しっかりと抱きしめていた。
 追う者達は矢を外したのを見て、再度矢を放つ。だが、ちらりと後ろを振り向いた
ターゲットの男の目が赤く光ると、矢は見えない壁に当たり阻まれ始めた。
 
 「チ!?」
 
 しかめ面をする人間達。しかし、顔色が一瞬で変化した。苦渋に歪んでいた顔が、
再び狩人が獲物を追いつめた時の様なしたり顔に変わる。
 ターゲットの男女の前方には、なんともう一部隊の人間の傭兵達が立ちはだかって
いた。
 二人は足を止め、互いに背を合わせて構える。
 
 
「もう逃げられないぞ!観念しろ!」
 
 
 人間達は弓を構え、二人を囲む。
 ギニアスがハリーの方を向き呟く様に言った。
 
 
「グゥゥ、…オレから離れるな。」
 
 
 ギニアスはそう言うと呪文を唱え始める。するとギニアスを中心に魔法陣が浮かび
上がり、赤い光りが上空に向かって光り輝く。
 
 
「魔法を使わせるな!矢を放て!」
「矢など効かぬ!この身が全て受けてくれるわ!」
「そうか!なら食え!」
 
 
 ギニアスの言葉に人間達の弓が一斉に放たれる。
 ギニアスはハリーをかばいつつ呪文を唱え続けるが、思ったより矢によるダメージ
が大きい。あまりのダメージの大きさに驚き矢を見ると、それは魔力を減退させる銀
の矢で、銀の持つ抑制効果が急激に魔力を衰えさせていたのだった。
 呪文を唱える魔力も次第に消え、彼を保護していた魔法防御も失われて行く。それ
に従いどんどん回復力が衰えて、命の灯火がいまにも消える何かを感じ始めていた。
 
 
「…女性の悲鳴を聞いてきたら、なんてこった。」
 
 
 駆けつけたカエルは惨状に驚き、グランドリオンを抜くと人間の一人にジャンプ切
りで襲いかかる。
 
 
「げ!カエルだ!逃げろ!!!」
 
 
 人間達はカエルの出現に驚き、散り散りに逃げ出して行く。
 
 
「覚えてやがれ!」
 
 
 昔魔物から聞いた捨て台詞を、まさか人間から聞くとはとため息がでるカエル。剣
を鞘に収めると、二人のもとに近付き話しかける。
 
 
「…派手にやられたな。大丈夫か?」
「…お前が噂に聞くカエルか?」
 
 
 重傷を負っている男がカエルの名を口にした。
 カエルは自分が噂になっていると聴き驚いた。
 
 
「おいおい、オレが噂になってるのか?」
「……どうやら、…グゥ、そうらしいな…グハッ、ガハッ、ゲホォ!」
「ギニアス!」
 
 
 ギニアスが吐血する。ハリーがそれを見て驚き彼の名を呼び手を握り、もう片方の
手でポケットからハンカチを出すと、ギニアスの汗と吐血の汚れを拭いた。
 
 
「くそ、格好つけやがって。ケアル!」
 
 
 カエルが魔法を唱えるが、思うように傷が塞がらない。
 
 
「どうなってるんだ!?効果が鈍い。」
「グゥ…、ハァハァハァ、…こいつの仕業だ。」
 
 
 ギニアスは自分の胸に刺さる一本の矢を思いきって抜いた。
 
 
「グアァアア!!」
「キャァ!?!」
 
 
 突然の行為にハリーが驚き悲鳴を上げた。
 矢の刺さっていた傷口からはどくどくと血液が流れ出した。カエルは慌ててもう一
度ケアルを唱えて傷を塞ごうとすると、今度はまだかかり具合が良い様で止血はでき
た。
 
「なんて無茶をするのよ!」
 
 ハリーが止血された胸の傷に手持ちのポーションを使う。すると、開いていた傷が
塞がった。
 ギニアスはカエルに矢を手渡す。
 
 
「これは…銀の矢!?…なるほどな。まずソイツを抜かないことには治せないという
 わけか。しかし、この量は半端じゃない。村で治療した方が良さそうだな。歩ける
 か?」
「ハァ、ハァ、…あぁ。」
 
 
 ハリーとカエルは、ギニアスの体を支えながら一緒に森の中を村へと歩き始める。
 途中ハリーから話を聞くと、彼等は平和な暮らしを求めてここに来たが、それまで
の道程に散々な目に遭ったことを語ってくれた。
 カエルは自分の実体験を元に彼等の置かれている状況を把握し、自分からもフィオ
ナに取りなすとした。
 
 村に着いてからはカエルからフィオナに事情を説明し、野良仕事から帰ってきたロ
ボ達を交えてギニアスの治療の準備が進められ、フィオナの夫マルコがギニアスの体
を押さえ、ハリーが矢を抜いている間、カエルとロボが交代でケアルをかけつづけた。
 ギニアスの傷は二人がかりの魔法による止血がなければ、とても当時の技術では治
療できる様な傷では無く、彼等はここに来たからこそ生き残ることが出来たと言えた。
 
 
 ギニアスとハリーは、その後村の仲間に迎え入れられ一生懸命に森の育成に励んだ。
 特にギニアスは金属加工技術に詳しく、デナドロ山やミスリル山から採取した原石
を加工して、様々な道具を格安で森の住民に広めるのに大きく貢献した。
 ハリーはそんなギニアスの助手として妻として、そして多少の医術の心得を持つこ
とから、医者としても森の発展を影ながら支え続けた。

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