クロノプロジェクト正式連載版

第24話「受け入れ難い迷い人…上」
 
 
…フン、そう易々と死んでたまるか。」
 
 
 ソイソーはそう吐き捨てる様に言うと、その場を足早に走り去って行った。
 走り去る様をよく見ると、ソイソーの衣服はボロボロで、所々に切り傷やそれを手
当てした跡などが見え、鮮血も滴っていた。ソイソーの後方から村の住人の中で戦え
るギニアスやロボが追ってやってきた。
 
 
「大丈夫デスか?お二方。」
「えぇ、なんとか大丈夫ケロ。」
 
 
 ロボの問いかけに元気よく返事をするカエオ。そこにギニアスが問う。
 
 
「奴はどっちへ向った?」
「た、たしか、村の方へ向ったケロ。」
「…チッ、何のつもりだ。ロボ殿、フィオナ殿達が危ない。」
「エェ。行きましょう!」
 
 
 ロボとギニアスは足早に村の方角へ走り去って行った。
 
 
「お、オレ達も行くケロ!」
「えぇ!」
 
 
 カエオ夫婦もその後を追って走り出した。
 
 
 
 
 ソイソーは魔王戦争敗戦後、世界中を逃亡することとなった。
 
 敗戦直後はビネガーやマヨネーらと共に、もう一度決起するべくメディナにて集結
したが、その地に突如消えたはずの魔王とクロノ達の登場によって野望は脆くも崩れ
去った。
 
 魔王ジャキの取った行動の意味は未だに理解し難かった。いや、それ以前から魔王
の思考回路は計り知れないものがあった。
 
 
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 魔族がまだ全面戦争には打って出られない頃、世界中にゲリラ的に散在していた諸
勢力をまとめることは困難を究めていた。
 何より元々世界中の魔族は、各々の地域で一応は強靭なティエンレン一族によって
まとまっており、それら一族の教育水準は高く生半可なスローガン程度で動く程に愚
かな者達ではなかった。まして、有史以前より魔族は多くの誤解と迫害を受け続けて
きた。そういう彼らには、歴史的教訓として革命を叫ぶものを疑うという慎重さがあ
った。
 
 
 「人間からの差別をなくすには、魔族による統治のある国家が必要だ。」
 
 
 …とビネガーは遠い過去に語っていた。
 
 
 ソイソーは元々そういう意識はなかったが、ただ漠然と現在の体制よりはまだマシ
になるとは考えていた。なぜなら、今までの政権では魔族に与えられる発言権は皆無
どころか、正式な国民とも認められていない状況にあった。
 辛うじて諸勢力の首長であるティエンレンが、人間の王であるガルディア政権に対
し朝貢することで、ガルディア国王が諸地域の統治者として封じるという体制で成り
立っていた。それによって初めてガルディア領民としての区別がつくだけで、それ以
外の権利は農奴以下だった。
 
 
 こんな状況よりは、自分達の国があった方がまだマシだと考えてもおかしくはなか
った。だが、理想を語るには力が必要だった。
 魔族の社会ではティエンレン一族を筆頭にヒエラルキーが出来ている。その社会の
中ではいくら知恵があったとしても、ティエンレンを中心に号令を出さなくては、ま
ず話しは通らない。
 
 
 ソイソーはティエンレンの血筋ではない。彼は魔力が少ないからこそ、その足りな
い物を人間の力である剣で補おうと考えた下級魔族の出身であり、その武勇と剛直だ
が礼儀正しい姿勢が多くの下級魔族のカリスマとなった魔族であり、本来の地位は相
当に低い。
 
 
 マヨネーはティエンレンの血を半分引くこともあり、豊富な魔力と強靭な肉体を持
つが、彼の性格や父親も定かではない下級魔族の母より生まれたため、ティエンレン
の血が半分含まれているとしても下級魔族でしかなかった。ただ、彼はビネガーと負
けず劣らず頭が切れる男だったので、その知恵を使って多くの魔族を率いるまでにな
った。
 
 
 ビネガーは2人よりは上の中級魔族だった。ジャリー系の血統だがティエンレンも
その血のなかに含む家だったこともあり、元々それなりの名門ではあったが、それも
ジャリーの中ではという前置きは捨てられなかった。
 
 
 彼らは理想を実現できるだけの力はあると確信していた。いくらティエンレンとい
えども、当時の彼らの力に匹敵するものはそうはいない。まして、彼らが3人束にな
った時は相当に厄介な存在にはなっていたので、一目は置かれるまでになっていた。
 だが、彼らはそれでは足りなかった。ガルディアを相手にするとは世界を相手にす
ることに等しい。故に戦争を闘い抜くには全ての魔族の力…特にティエンレン一族の
力が必要であることは不本意であっても認めざるを得なかった。
 しかし、ティエンレンの全てを動かせる者とは、魔族の世界では古き伝説の王朝で
ある「ジール」の者達しかいない。彼らはジールに等しいカリスマを切望していた。
 
 
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 そんな時に現われたのが少年時代の魔王ジャキだった。
 
 
 ジャキは子供の頃から彼らは勿論、ティエンレンですら軽く超越する魔力を持って
いた。その圧倒的力を見て3人はジャキを担ぎ、魔王と名乗り世界を相手にする決意
を固めたのだった。
 
 
 だが、ジャキは積極的にはあまり協力しなかった。
 彼は常に何か違うものを追っていた。
 
 
 魔王城を建設するときも元々はメディナで建設する予定が、遠く西方のゼナン大陸
とメディナ大陸の海峡近くに建設することを強硬に主張したのは魔王だった。
 
 海峡での建設は困難を要し、多くの人命と資金が失われた。
 だが当時の彼らは人類初の偉業である海峡トンネル建設や、強大な魔族の力を披露
する場としての要塞の建設は悲願でもあったため半ば盲目的に猛進したが、魔王はあ
の当時本当に闘う気があったのか、…今考えると多くの疑問を禁じ得なかった。
 
 
 魔王は一体誰のために闘ったのか?それを考えたとき、ソイソーは自分の信じて進
んできた道の無意味さを感じない日はない。
 
 
 この5年という歳月は、かつての自分とは全く違う自分となっていることを否応無
く認めざるを得ない。気が付いた時には走り続けていた。しかも、それは自分の成し
たことに対する逃亡であった。
 かつての自分は決してその様な醜態を曝してまで生きるつもりは無いと思っていた。
だが、実際にその立場に立ってみて今更ながら驚くことは、己の生への欲望が予想以
上に大きかったということだった。
 彼は剣士であると同時に軍人である。軍人とは戦場に散る者であり、民族意志の駒
である。戦場に散ること、それは軍人の華であると常々思っていたにもかかわらず、
今は必死にその戦場から逃げていることが心底可笑しくてたまらなかった。
 この嫌な笑いはどこから涌いてくるのだろう?何をそれほどまでに生きる必要があ
ろうかと同時に感じながら走り続けていた。
 
 
 生きる…今更ながらにその真の意味が知りたいという思いはあった。
 しかし、それを確かめるには、自分の捲い種が大きく成長しすぎて妨げられ続けて
きた。悔いるつもりは無いが、確かめる術さえもない。
 そんな時間が続き生じた傷が蝕んで、結局はどこかで倒れるのだろうという予感が
していた。
 
 
 戦場とは遠く離れたが、逃亡している今も彼にとっては全てその場が戦場の延長線
上にあるものと思えていた。
 
 
 
 そう、まだ自分の戦争は終わっていない。
 
 
 
 ようやくその答えが頭のなかでソイソーを強引に倒そうとしていた。
 
 
「…く、何を今更…」
 
 
 走るソイソー。進む道は木々が生い茂り、ソイソーは行く手を阻む木を時には切り、
必要が無ければそのまま突き進み続けた。後方からは2人の足音と声が聞こえる。
 
 
 
「止まれ!ソイソー!!」
「くどい!お前ら如きにやられるかぁ!!!」

 
 
 
 ソイソーはそう言うと剣を後方に振るう。すると切っ先から真空の刃が生じ、その
刃がギニアスを襲う。
 ギニアスはそれを紙一重で避けたが、頬に一筋の傷を負う。
 
 
「く!、あの体でまだ力があるのか…、化け物め。」
「ギニアスさん、治療しマス!」
 
 
 ロボがギニアスの傷をソイソーを追い走りながら瞬時に癒す。
 
 
「有り難う、ロボ殿。しかし、ロボ殿、もうすぐ村についてしまう。ここは一つ?」
「了解。」
 
 
 ロボはロケットパンチを前方に放つ。
 
 
「ふん、何処をねらっている!そんなもの当たらんわ!」
 
 
 しかし、ソイソーは自分の判断ミスをその直後に実感する。ロボのロケットパンチ
は前方の木を倒し、ソイソーの行く手をさえぎった。
 ソイソーは倒木を避けざるを得ず、一旦停止することを余儀なくされた。
 
 
「…チ、」
 
 
 ソイソーは素早く振り返り、剣を構える。
 ロボとギニアスはすぐに後方から追い付き、ソイソーと対持する。
 
 
「観念するのだな。」
「抵抗する場合ハ容赦致しまセン。
 ココは、おとなしくご同行お願いしマス。」
 
「ふん、お前らの指図は受けん!」

 
 
 ソイソーが剣に力を込める。
 青い光りが体から噴き出し周囲を威圧する。
 二人はその力の凄まじさに驚いた。
 
 
「!?」
「魔力反応急上昇!属性天、出力増加値…計測不能!」

 
 
「影殺剣!」
 
 
 ソイソーが叫ぶと姿が光りに覆われ、小さな光りの粒となって消失した。
 
 
「何!?」
「身体消失!魔力反応急接近!!緊急回避!」

 
 
 ロボが回避に動くが一歩遅く、突如目前に現われたソイソーによって剣で殴打され、
後方に飛ばされる。ロボの体はそのまま後方の木に打ち付けられた。
 ギニアスも魔法防御を働かせたが、斬られ負傷。
 
 
「ぐあぁぁぁ、くぅぅ…」
「…回避失敗、…短期メモリーの一部破損、……身体保護強度60%にダウン。
 ……緊急リペアプログラム起動…、サブシステムオンライン…」
 
 
 ソイソーは二人を突っ切ると、即座に振り向き構え言った。
 
 
「フン、他愛もない。」
 
 
 ソイソーはそう言うと二人に止めの一発を放とうとした。
 しかし、その一撃は放ち終えることはできなかった。
 
 
「!?…チッ。」
 
 
 風の様に現れたカエルが剣を構える。
 カエルは二人の前に立ち、ソイソーの攻撃を受け止めていた。
 
 
「お前の好きなようにはさせん!」
「…お前にできるか。」
「何だと?」

 
 
 ソイソーはそう言うと後方に飛び退き、そのまままた村の方向へ走りだした。
 
 
「待て!」
 
 
 カエルが叫ぶ。
 しかし、ソイソーはそのまま走り去った。
 カエルは追おうとするが、負傷している二人を見て足を止める。
 
 
「大丈夫か?」
「あぁ。それより早く行ってくれ!」
「村が危ないデス!」
「…わかった。」
 

 二人に促され、カエルはソイソーの後を追い走った。

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