クロノプロジェクト正式連載版

第30話「守りの剣 上」
 
 
 方からパトラッシュが他の村人達を呼んできていた。
 
 
「か、カエルさん………」
 
 
 カエルはその場に膝をつき、ずぶ濡れで力なく座っていた。だが、村人の声を聞き、
立ち上がった。しかし、顔は村人の方を向かなかった。
 
 
「…大丈夫だ。だが、アレクセイさんは…。」
 
 
 村人達がアレクセイの死体を見て言葉を失う。
 
 
「…後のことは頼む。」
 
 
 カエルはそういうと、1人歩いて森の中に消えて行った。
 その後ろ姿はとてもいつものカエルの姿ではなかった。
 
 
 
 その夜、今回の事件を深刻に受け止め、今後どうすべきかをその夜話しあうことと
なった。場所はフィオナ湖畔に設けられた集会場で行われた。集まった人数は100
人にもなり、それぞれの区域のリーダーや種族のリーダー、またパトロールの出来る
戦士達などが主な構成だ。そこには森の戦士の一人としてカエルも参加した。
 
 
 
「…これまでカエルさんやロボさん達によってなんとか我々は守られてきた。だが、
 それが可能だった状況も今崩れつつ有ると思う。」
 
 
 一人の村人が皆に向けて行った。そこに周囲の者達も同意する。
 
 
「んだ。人間達はこの森を狙ってるダ!襲いに来る奴等の人数も1人じゃ無く何人も
 だべ!」
「この前も東の森のカエオさん夫婦が襲われかけたというじゃない。
 どうなの?カエオさん?」
 
 
 中年の女性の亜人がカエオ夫婦が数日前に襲われた話をした。
 
 
 カエオ夫婦は秋の味覚の収穫時期に冬眠に向けて準備していた。
 蛙人の生態は他のは虫類系人種同様に冬眠という一定の休眠期間を一年の一時期に
持つ。この時期に眠る事で体の様々なバランスを調整し、蛙人の持つ抜群の運動能力
を保つことが出来る様になっている。その期間は暗い穴蔵の様に閉め切った家で保存
食を食べながら眠り続けるため、冬眠前に多くの食料を用意する事はとても大切な準
備だ。
 カエオ夫婦も待望の子宝にも恵まれた今年は、子ども達の分も合わせた食料を必要
とするため、夫婦は森中を駆け回りかき集めていた。そんなとき、食料探しに我を忘
れて、人間と遭遇する境を超えたことを知らず、賞金稼ぎの傭兵達に襲われかけた。
 しかし、幸いにもその時はパトラッシュが駆けつけ傭兵を追い払った。
 
 
「あぁ、大変だったケロ。あの時はパトラッシュに助けて貰ったケロ。
 でも、今後も不安ケロ〜」
 
 
 村人達は次々に不安を述べ出した。
 その不安の声の多さにフィオナが制止し、論点を整理する。
 
 
「皆さんの仰りたい事は分かりました。で、どうすべきでしょう?私が思うに考えら
 れる選択肢は3つあると思います。
 
 
 一つは人間達と話し合うこと。
 
 二つめは武器を持って守りを固める事。
 
 三つめはこの森を明け渡すこと。
 
 
 …この3つでしょう。」
 
 
 フィオナの言葉に一同衝撃を覚える。ギニアスが憤り叫んだ。
 
 
「森を明け渡すだと!?そんな選択肢があるか!!」
「そうだそうだ〜!」 
 
 
 村人達も呼応する。
 しかし、フィオナは冷静に言った。
 
 
「…えぇ、できれば私もこれは選びたく無い。でも、もしも選択肢が無くなれば、こ
 れも最後の選択肢として捨てるべきでは無いわ。」
 
 
 フィオナの言葉も一理ある。村人達はフィオナの言葉に声を沈めた。
 ギニアスも冷静に言った。
 
 
「ならば、現実に選択すべきは2つか。話し合いなどが人間達との間と可能だとは思
 えんが、どうするというのだ?」
 
 
 ギニアスの問いにフィオナにも名案は無く、重い表情で答えた。
 
 
「…私もそれは認めざるを得ないわ。今の人間に私達の意志を伝える事は戦争しか呼
 ばないと思う。でも、できるなら互いに血を流す事だけは避けたいわ。勿論、これ
 は私が人間であるということも切り離せないけど、本心として争う事ほど無益なこ
 とは無いと思うわ。」
 
 
 フィオナの言葉に皆静まり返っていると、そこに後方から一人の男が声を上げた。
 
 
 
「……そうやって血を流す事を避ければ、
   より多くの血が未来に流れることになるだろうな。」

 
 
 
 後方からの声の主はソイソーだった。ソイソーはハナと共に集まる人々の周りの木
陰に立っていた。ソイソーに皆の視線が集まる。村人の一人がソイソーに問う。
 
 
「…ソイソーさんならどうすると言うんだ?」
「…俺か?俺ならば迷わずに武器を持つことを選ぶだろう。もちろん、フィオナの言
 うことはわかる。だから、こちらからは打って出る必要はない。しかし、応戦する
 力を持つ限りは互いを抑止できるだろう。」
「おぉ、なるほどぉ〜。」
 
 
 村人達はソイソーの冷静な言葉に関心を示す。しかし、そこに反論が出た。
 
 
「…それでは今までの魔族のやり方と何ら変わらないではないか。そんなことまでし
 なくては平和を維持できぬほどに、魔族とは虐げられねばならないのか!」
 
 
 その反論はカエルだった。カエルの声には怒りすら垣間みれた。だが、そんなカエ
ルに対してもソイソーは冷静に言って退けた。
 
 
「…歴史の溝はそう簡単には埋まるまい。
 理想はわかるが、理想だけでは食べてゆけん。」
「く…。」

 
 
 カエルは人間の自分が憤って、魔族のソイソーが冷静であることに複雑なものを感
じた。達観なのか?そんなもので済んでいいのか?…しかし、虐げられる側に生まれ
ながらに立つソイソーの言葉は重く、確かに現実だった。
 そこに、フィオナがソイソーに尋ねる。
 
 
「しかし、武器を持つといっても、私達には持てる武器が無いわ。魔法だって銀製の
 武器でやぶる事ができる御時世よ。付け焼き刃の力で守れるものかしら?」
「ふん、何も魔法で戦えとも付け焼き刃で戦えとも言っておらんさ。武器ならある。
 …剣だ。オレが剣を教えよう。オレの剣ならばそこらの人間に勝てはしない。」
「おぉ、そうか!ソイソーさんの剣技なら…って、そんなに簡単に修得できるものな
 のかい?」
「無論…無理だ。」
 
 
 村人達が一斉にガクっとくる。
 
 
「そんな阿呆な話がありますかいな〜!」
「それじゃ話にならないじゃないか〜!」
「真似するだけなら猿でもできるべー!」

 
 
 村人達の抗議が殺到する。
 フィオナがそれをなだめて質問する。
 
 
「…ソイソーさんはどうするというの?」
「俺達の世代で修得できる技術は知れたもんだろう。だが、未来の世代になればその
 技術レベルはより向上するだろう。中には俺を超える者も現れるやもしれない。し
 かも、普通の者でも俺のレベルだ…十分に人間どころか、上級魔族にすらこの森を
 荒らす事は不可能になるだろう。…これにカエルの技術も加われば敵は無い。」
「おぉ!!!」
 
 
 ソイソーの言葉は確かに現実的一つの選択だった。
 ギニアスが相づちを打つ様に言った。
 
 
「なるほど、その話は現実的だ。我々の世代も努力すれば今後も守れるだろうが、未
 来をより強固に守る事ができるのならば、これほど素晴らしい事は無い。
  よし、俺はその話に乗った!この話がまとまったならば、俺がみんなの装備をそ
 れぞれに合わせて作ってやろう!魔王様が身に纏った最高の技術を投じて作るぞ!」
 
 
「おぉ!!!」
 
 
 村人達が大いに盛り上がる。
 だが、そこに大声で反論を叫ぶ者が出た。その声はカエルのものだった。
 
 
「そんな話は認められん!!!」
 
 
 カエルの突然の叫びに全員が驚く。カエルの表情はとても怒っていると誰にもわか
るものだった。そこにフィオナが問う。
 
 
「何故です?」
「フィオナ、あなたは武器は力にならないと考えているのではなかったのか?」
「えぇ、勿論です。武器の力で訴えることは何の意味ももたらさないでしょう。しか
 し、自衛の力は別です。誰でも自分の身を守る力を持っているから普通に暮らすこ
 とができます。
  私達は今までそれをカエルさん達に頼りっぱなしでした。しかし、私達の世代は
 いずれ消える運命なのです。その時、カエルさんの役目をする者は誰でしょう?」
 
「……。」
 
「…誰もいないのです。ソイソーさんは、未来のあなたやソイソーさんを作ることで、
 自分の身を守ろうということです。これは私達の未来の世代の安全のために大切な
 ことなんです。
  確かにカエルさんの仰る通り…私も武器を持つことは嫌だけど、自分の身は…で
 きれば自分で守りたいわ。」
 
 
 そこにロボがフィオナを援護する。
 
 
「総合的に判断すると、暴走の可能性は私が稼動していられると考えられる400年
 は低く押さえる事が可能と考えられマス。しかし、一定のリスクは回避できまセン。
 ですが、低リスクに導く努力を誰もが持ちうる限りにおいて、また、私の力を超え
 る何かが加わらない限りにおいて、リスクの制御は可能と判断できマス。」
 
 
 しかし、ロボの言葉にもカエルの表情は一向に変わらなかった。
 カエルは立ち上がり周囲に向かって言った。
 
 
「……納得が行かん。オレは手を貸さないぞ。勝手にするがいい。帰る。」
 
 
 カエルはそういうとそのままその場を退場した。レンヌはそんな夫の姿を見て、フィ
オナや集まる人々に一礼すると、静かに後を追った。
 
 
「…今回ばかりはカエルさんを無視して進めよう。」
 
 
 村人の一人が言った。
 フィオナも困った表情をしつつ、その言葉に同意し言った。
 
 
「…仕方ないですね。話は進めて下さい。カエルさんもきっとわかってくれると思い
 ますが、まだ心の整理ができていないのでしょう。もう少し待って下さると有り難
 いです。皆さんいかがですか?」
 
 
 フィオナの言葉にギニアスがまず反応した。
 
 
「…カエル殿が入らぬのであれば、この話にそのまま協力はできぬ。オレは待つぞ。」
 
 
 ギニアスの待ちの姿勢にカエオ夫婦も続く。
 
 
「…オレも待つケロ。」
「私もケロ。カエル様は命の恩人ケロ。私達は無視なんて出来ないケロよ。」
 
 
 主要な人々の待ちの一人の村人がソイソーに態度を聞いた。
 ソイソーは突然の振りにも表情を変えず、ぼそりと応えた。
 
 
「ソイソーさんはどうなさるんで?」
「…俺はどうであろうと構わん。しかし、この話は森の総意であった方が都合は良い
 だろう。…あらぬ疑いはまっぴらだからな。」
 
 
 ソイソーの言葉にマルコが頷いてフィオナに言った。
 
 
「うん、ソイソー殿も待つ気とあらば待つべきだろう。」
 
 
 フィオナも同意し、村人達に呼びかけた。
 
 
「…そうね。みんなありがとう。では、今日はこれにて散会としましょう。」
 
 

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