クロノプロジェクト正式連載版

第37話「北の森」
 
 
 
 ロノ達は昔砂漠だった地域に立ち入った。
 しかし、砂漠というほど砂だらけという印象は既に無く、広大に広がる草原が見
える。草原には沢山の動物が暮らし、湿潤な気候が雨雲を作り殺風景だった空が嘘
の様な様々な形が浮かんでいる。
 
 
「すげぇ、こんな広い草原初めて見る。」
「凄いねぇ。途中を見た事無かったけど、こんな景色があったんだね〜。」
 
 
 2人は草原の中をゆっくりと楽しみながら、温かな日差しのもと進んだ。暫く続
く草原を抜けると、遂に目的の森が見えてきた。しかし、その規模は2人の想像を
大きく越えるかなり巨大なものだった。森は地平線の向こうまで鬱蒼と茂り、未来
に広がる森の偉容を既に持つに至っていた。わずか10年の歳月でこれほどの規模
まで広がっていた。それは少なからぬ驚きだった。ただ、未来と明らかに違うのは
木の若さだった。
 
 
 ようやく森の入り口に入った。森の中は若い葉から光が透けてキラキラと輝いて
いる。下を見れば先程の草原とは明らかに違う生物の多様性が見える。地面には多
くの昆虫が這い、小動物の足跡らしきものもある。
 暫く進むと気候帯が変化しているのか、かつてのゼナン砂漠の乾燥が嘘の様な湿
度があり、より貪欲に養分と光を欲っする植物の競争が展開されていた。
 
 
「なんか原始時代の森みたいね。」
「あぁ。」
 
 
 クロノは無言で刀に手を掛けた。マールがその動きを見てクロノの背後に静かに
歩きながら回った。
 
 
「…囲まれているぞ。」
「…うん。」
「…ざっと10人くらいか。」
「歓迎は…してないのね。」
「…わからない。離れるなよ。」
 
 
 クロノは森に入った時から明らかに異質な力を感じていた。魔力であることは間
違い無いが、かつての魔族の持つ闘争心旺盛な魔力の感じとは明らかに違っていた。
似ているものを示すならば、それは理性的な現代のメディーナで感じた魔力の感じ
に似ている。だが、その数は尋常じゃない。これだけの魔族が集結していながら、
この時代で理性的に生活していられるものなのか?…いまいちハッキリしないこと
に苛立ったクロノは考えるのをやめ、足も止めて叫んだ。
 
 
何の用だ!
 事と次第によっちゃあ、こいつで応えることになるぜ!!!」

 
 
 やや動揺の気配。そして、どこからともなく声がした。
 
 
「そちらの用こそ聞きたいな。」
 
 
 クロノは気配を探る。木の枝の上からも気配がする。
 おそらく数人が弓で狙っているのだろう。
 
 
「…人に会いに来た。この森に住んでいると聞いた。」
 
 
 用心深く答える。
 全神経を研ぎ澄ましいつでも動けるように身構えていた。
 
 
「…見え透いた嘘を付くな。
 外の人間が会いに来る者などこの森にはいない。」

 
 
 声は若い男の声だ。だが、相手の魔力が感じられない。周囲にいる者の魔力は大
方見当をつけたが、その声の主と思われる気配は感じられない。それどころか、ま
るでソイソーやカエルの様な鋭敏な気迫を感じる。相当な相手である事は確かだろ
うと思われた。
 
 
「…あんたはこの森の住人か?」
「…だったらなんだ?」
「…カエルを知らないか?この森に移り住んだと聞いた。」

 
 
 辺りが一瞬ざわめく。周囲に動揺が感じられる。
 周囲の動きに緊張する2人。
 
 
「…蛙ならいっぱいいるさ。」
 
 
 やや動揺を押し隠しながら言う。
 
 
「俺の探してるのは普通の蛙じゃない。でっかくて、剣の達人だ。」
 
 
 ザワザワザワ…
 周囲が再びざわめいた。
 
 
「ほぅ、そんな蛙に何の用だ?」
「いるんだな?
 俺たちはそのカエルに会いに来たんだ。通してくれないか?」
「だから、何の用だ!!!」
 
 
 相手の声はかなり殺気立っている。
 だが、そんな声に気圧されているわけにはいかない。相手は確実に知っている。
そして、それを隠している。
 
 
「俺達は、あいつと友達なんだ!」
「ふざけるな!」
「ふざけてない!本当だ。信じろ!」
「じゃあ、証拠を見せてみろ!」
証拠?そんな物が、
 
友達に会うのにそんな物が必要なのか!!!
 
 
 クロノは向きを変えたかと思うとダッシュした。突然の行動に誰も動くことがで
きなかった。そして、クロノは正確に声の主の胸ぐらを掴み掛かろうとした。男は
突如現れた相手に驚き慌てて剣で斬りかかる。周囲の弓兵が男に当たるのを恐れ撃
ちあぐねている隙に、クロノは相手の剣をあっさり右手で弾き飛ばし、空いた左手
で男の胸ぐらを掴み上げる。
 
 
「何であいつに会うだけに、
 こんなに疑われなきゃならないんだ!
 
いい加減にしてくれ!!!
 
 
 クロノの思いは、マールの思いでもあった。
 
 
 一方、男の方は呆然としている。
 自分が斬りかかっていったのに、相手は自分を斬らなかった。
 自分が剣で攻撃した以上、相手が刀で反撃してきても文句は言えないし。またそ
れで普通だと思う。だが、相手はわざわざ素手で掴んできた。しかも、本気で怒っ
ているようにしか見えない、打算のない純粋な怒りを感じる。
 
 
「…すまない。…信じよう。」
 
 
 男は掴まれたまま、精一杯頭を下げた。
 クロノは、男を離す。
 お化け蛙の森の時と違い、割とあっさりと信じてもらえたことに少し戸惑った。
 
 
「おい、いいのか?」
 
 
 他の仲間達が驚きその若者に口々に言った。。
 しかし、そんな仲間の声に堂々とその若者は答えた。
 
 
「ああ、この人達は信じられる」
「……。」

 
 
 男は飛ばされていた剣を拾うと鞘に収める。
 すると、周囲の者達も姿を現した。
 
 
「疑って本当に悪かった。カエルのことについて知りたければ、この森の長に会っ
 てくれ」
「…長って、もしかしてフィオナ?」
 
 
 マールが尋ねると、村人達は一様に驚いた表情をした。
 
 
「!村長をご存じで?」
「うん…昔ちょっとね。」
 
 
 やや照れたように答えるマールに、男は恐縮した様に頭を下げて再度謝罪した。
 
 
「村長のご友人の方とは…本当に失礼しました。」
 
 
 2人は森の住人達に案内されて村へ歩き出した。
 森は秋色の地域を離れ、次第に緑豊かな領域に入ろうとしていた。樹々は若い
緑の葉を茂らせ、天高く空を目指してそびえ立つ。森の深くに入る程に樹の高さ
は更に高くなり、静かな静寂と風がその空間を包み込んでいた。そこに響くのは
村人と自分たちの地面を踏みしめる音。彼らの案内無くしては、この様な音もな
い空間では迷ってしまいそうにも感じた。だが、村人達はしっかりと確実な足取
りで前を進んでいる。
 暫く歩くと再度植生が変わっていた。なにより整備された様な綺麗な印象を受
ける樹々が生えていた。そして、獣道の様な不確かな道から除草され整備された
道に出くわした。若い魔族の村人が言った。
 
 
「もうすぐフィオリーナです。」
「フィオリーナ?」
 
 
 マールが不思議そうに訪ねると、男は優しく答えた。
 
 
「この森の中心の村です。」
「へぇ〜。」
 
 
 2人はその後20分程歩くと、遂にフィオリーナの村に入った。
 村はこざっぱりとした樹の家が幾棟も建ち並び、陽気な笑顔を持った魔族と
亜人と人間が仲良く道を行き交っていた。
 

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