クロノプロジェクト正式連載版

第47話「懐かしきガルディア」
 
 
 人は森を出てゼナン海峡大橋に差し掛かる所だった。
 
 
「アレ…何かしら?」
「………?」

 
 
 2人の前方には今までに全く見た事もないものが建っていた。それは砦のように
頑丈そうな建物で、橋の入り口に建っている様に見える。
 
 
「こんなの歴史で習ったか?」
「ううん、私は知らない。」
「…だよなぁ。どうなってんだ…?」

 
 
 兎に角、ここを通らなくてはガルディアには入れないので行ってみる事にした。
 近づくと改めてその巨大さが伝わってくる。しかし、まだ建設途中の様で大工や
人足など多くの人が作業をしていた。砦の上方では壁画が作られており、ガルディ
アの紋章にも使われる神の鳥シルヴァドゥールらしきものの下に、伝説に残る初代
王を支えた12使徒達の姿を彫り込んでいる様子も伺える。
 砦の付近には沢山のテントが作られており、王国兵も数多く作業の他警備にあた
っているようだ。
 門には4人の検問官らしき兵士が立っている。2人は門を許可無く突破しようと
する者を防ぐために長槍を持ち立ちはだかり、残りの2人が実際の検問をしている
のだろう。よくよく眺めていると、通ろうしている人が何かを見せている。2人は
急いで近づいてやり取りを見る事にした。
 
 
「許可証はあるか?」
「はい、こちらに。」
 
 
 行商人らしき男が一通の書簡を開き見せた。検問官がその書を見る。
 
 
「ふむ、確かにフォンデュー町長の許可状だな。よし、通って良い。」
「はは、どうもありがとうございます!」
 
 
 門番の兵士が道を開けると、行商人の男は頭を下げて門の向こうに歩いていった。
 2人はこのやり取りをみて思い出す。
 
 
「(これが許可証って奴の理由じゃないか?)」
「(そうね!じゃ、行きましょう!)」
「(あぁ)」
 
 
 2人は堂々と検問官の前に立った。
 検問官は2人を見て言った。
 
 
「許可証はあるか?」
「許可証でしたらこちらに…」
 
 
 マールがフィオナから受け取った書簡を開き見せる。
 
 
「…フィオナの森!?……しょ、少々お待ち願えますか?」
え?えぇ。」
 
 
 突然検問官が慌てて低姿勢になり戸惑う2人を後にして、一人の検問官が足早に
砦の中に入って行った。それから五分後…
 
 
「(遅いねぇ。)」
「(あぁ、何も無けりゃいいが…)」
「(そうねぇ、あっても変わらないけど、騒ぎにはしたくないしぃ。)」
 
 
 2人が退屈で話していると、砦の中から先程の検問官とその後ろから立派な服を
着た男が現れた。年齢は30代くらいだろうか。男は颯爽とマントを揺らし2人の
近くに歩いてくると、1m手前程で立ち止まり突然敬礼をした。2人は突然のこと
に驚きと戸惑いでどうしていいか分からないでいた。すると、男が敬礼を解いて口
を開いた。
 
 
「私はこの橋を守る第三師団隊長のカル・ボナラーと申します。お二人があの英雄
 のクロノ様とマール様とは知らず、数々のご無礼失礼致しました。」
 
 
 マールが戸惑いつつ言った。
 
 
「あ、あのぉ〜、私達は何の事やら…」
 
 
 マールの戸惑いの言葉に、ボナラーは微笑んで答える。
 
 
「お忍びでの新婚旅行ということで、森では楽しまれましたか?」
「え?あ、もしかして、読んだ?」
「はい、失礼ながら拝見させて頂きました。」
「そうですか…、で、あのぉ、私達はここを通る事は………?」
 
 彼女は内心さっさと答えて欲しいと冷や汗をかきつつ言った。そんな彼女を察し
たのかボナラーは言った。
 
 
「大丈夫です。お通り下さい。城へ行かれるのですか?」
「えぇ。」
「そうでしたか、でしたら、馬をお貸ししましょう。」
 
 
 ボナラーが笛を吹くと、部下が馬を二頭連れて来た。
 
 
「さあ、どうぞお使い下さい!」
「良いんですか?」
 
 
 マールの問いかけにボナラーは再度微笑んで言った。
 
 
「勿論です。さぁ、我が王がお待ちです。」
 
 
 2人はそれを聞き互いに頷くと、足早に馬に近づき手慣れた手つきで飛び乗った。
そして、クロノがボナラーに向けてガルディア式の敬礼をし言った。
 
 
「神の翼あるガルディアに栄光あれ!!!」
 
 
 2人の乗る馬が橋を颯爽と駆けて行く。それを後方で見守る兵士達は、全員が彼
らの方向を向き敬礼した。
 橋から見える海はキラキラと輝き、まるで2人を歓迎するかの様に追い風が吹い
ていた。2人の乗る馬はあっという間に橋を駆け抜けた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「…ねぇ、まだかなぁ?」
「もう少しだ。頑張れ。」

「あ〜もう疲れた。お尻痛いしぃ。1週間も野宿だし、ろくなご飯も食べて無いし、
 汚いし臭いし、いや!」
「…おいおい、俺だって好き好んでしているわけじゃないんだぞ。」
「わかってるけど、ムカつくのよぉ!もう、あのオヤジ!今度見たら絶対タダじゃ
 おかないんだからぁ!!!」
 
 
 クロノ達は1週間に及ぶ長旅で疲れていた。いくら馬があるとはいえ、馬も常に
走り続ける事は出来ない。2人は馬を休ませながらゆっくりゆっくり確実にガルディ
アに近づいた。そんな中での疲労が2人の心をきしませる。
 マールは野宿生活に苛立ちクロノに当たり、クロノはというと、そんなマールを
なだめながら一生懸命に馬を走らせた。途中幾度か盗賊に襲われはしたものの、そ
の辺は二人の問題では無く、むしろ過度のストレスのたまった二人のはけ口として
格好の餌食となっていた。
 しかし、それが度重なると盗賊からも相手にされず、ただ退屈な見飽きた景色を
延々と眺めながらの旅路が続いた。そして、彼等の前にようやく目的地が見え始め
る。2人は上り坂のため、馬の負担軽減のために馬を引いて歩いていた。
 
 
「あぁ、城よ!懐かしいわ。
 なんか久々に帰ってきたみたい。」
「あぁ。」

 
 
 マールがくるりとまわって笑みをこぼす。何処にそんな力が残っていたのかとい
う疑問も忘れてしまう程に二人は喜んだ。
 二人はそのまま城への道を行く。もうここは彼らのなじみのガルディア。常に変
わらぬガルディアの森を抜けると、そこには2人の家でもあった城がそびえたって
いた。2人は馬から降りて門前まで歩くと、門前には衛兵が二人立っていた。
 門に近付くと…
 
 
「そこの2人、止まりなさい。」
「然るべきところより受けた許可証は持っているか?」
「許可証はあります!」
 
 
 マールがフィオナから渡された手紙を見せる。
 
 
「…フィオナの森からか。しばしここで待っていろ。」
 
 
 衛兵が1人中に入って行く。その間、もう一人の衛兵にマールが話かける。
 
 
「はぁ〜、疲れた〜。ねぇ?
 
 
 衛兵はマールを見て一目惚れしてぼーっとしていた。そこにマールから話しかけ
られて驚く。
 
 
は!?な、何だ!?」
「まだ暫くかかるの〜?」
「それはわからない。最終許可は大臣閣下に上がってからだからな。」
「そう、じゃ、時間がかかりそうね。ねぇ、その間お話しましょう?」
へ?それは困る!俺は仕事中だ。」
「そんな堅いこと言わなくても良いじゃない?平和なんだから。」
「それはそうだが…ダメなものはダメだ。」
「えー?ケチー!世間話くらい良いじゃない。」
 
 
 マールが拗ねた様な顔をすると、兵士が微妙に後ろめたく感じる。
 
 
「…す、少しなら良いだろう。」
「ホント?ありがとう!ねぇ、クロノも一緒に話そう!」
 
 
 マールは兵士が相手をしてくれると聞いて喜ぶ。クロノは困った奴だなと思いつ
つも、いつもの事だと微笑んで付き合った。
 
 
「ねぇねぇ、この仕事していて怪物に襲われた事あるの〜?」
「それはないな。平和だからな。」
「へー、じゃぁ、凄く楽じゃない。お給料良いの?」
「まぁな。楽と言えば楽だが、一日ずっと立っているのは辛いぞ。給料もそれほど
 高くないしな。」
「え?一日ずっと立ってるの?交代は無いの?」
「交代はあるさ、だけど何も無いんだぜ?城に用事がある奴は決まってるから顔ぶ
 れは分かってる。そういう奴らには簡単な確認だけでいいからこうして話すこと
 もない。あとはただずーっとひたすら突っ立って見張りをしているだけさ。」
「まぁ〜、それはつまんないね〜。私にはできないわ〜。」
「ははは、確かにマールには無理だな。」
 
 
 クロノが思わず2人のやり取りを聞いて笑って言った。
 そんなクロノの発言に仏頂面になってマールが反発する。
 
 
「あら?人のこと言える〜?この人一倍我慢出来ないくせに〜」
「おいおい、俺はこれでも親父様に言われてしっかり衛兵やったんだぞ?」
「あ、そうだったわね。花婿修行したんだっけ。」
「(ムカツクやつ)…ところで、一つ聞いていいか?」
 
 
 衛兵はクロノから突然話し掛けられる。
 
 
「なんだ?」
「魔族ってどう扱われてるんだ?」
 
 
 クロノの予想外の質問に、衛兵は怪訝な顔をして答える。
 
 
「は?フィオナの森から来たと言っていたな?お前達は魔族の回し者か?魔族がどう
 扱われようと勝手だろう。奴等は散々我々を殺したんだ。あいつらに普通の幸せな
 んてあってたまるか。」
「…そうか。いや、別に他意はない。単に気になっただけだ。」
 
 
 その時、内部で慌ただしい足音が聞こえる。
 
 
 ドドドドドドドドド………
 
 
「開門っ!!!!」
 
 
 ガタガタガタガタガタガタガタ………
 
 
 正門の大きな扉が開かれる。開かれた扉の向こうには赤い絨毯が奥まで敷かれてい
た。そして奥から大勢の人を引き連れて誰かがやってくるのが見える。
 
 
「国王陛下のおなーりーーー!!!!」
 
 
 国王が妻リーネと共に自らクロノ達のもとへやって来た。クロノ達と衛兵の兵士は
何がなんだかわからない状況だった。
 
 
「クロノ殿、それにマールさん。よくぞ来て下さった。我が国を救った英雄が来てく
 れた事をこの上なく喜ばしく思う。我らはお二人を快く歓迎致します。ごゆるりと
 寛がれると良い。」
「感謝します。」
 
 
 2人は国王の歓迎の言葉に一礼し感謝の意を伝えると、マールがひそひそ言った。
 
 
「…王様、手紙の内容は御覧になられましたか?」
「うむ。だが、私も詳しい行方はわからぬ。まぁ、とにかく中で話そうではないか。」
 
 
 2人は国王と共に城の中に入って行った。
 城の中に入ってからはセレモニーの連発で、この日の為にと用意された催しごとが
大臣の手によって次々に行われた。
 初めに王との謁見に始まり、国王と市街への凱旋パレードをし、その後クロノと国
王親衛隊の御前試合に、貴族や豪商を招いた社交パーティと目も回るような目まぐる
しいスケジュールが2人を否応なく襲って行った。そして夜、国王の寝室にて…
 
 
「いやぁ、すまなかった。クロノ殿。私もここまで大臣が考えていたとは思わなんだ。」
「はは、ははは、い、いやぁ、さすがに、お、俺も疲れました。」
「はぁぁぁぁ、ぐったりですよぉ〜。」
「本当にごめんさい。でも、大臣も皆もお二人のお立ち寄りを大変歓迎してのこと。
 わかって差し上げて。」
 
 
 国王夫妻は2人の労を労う様に部屋にマッサージ師を呼んで、二人の疲労をほぐす
のに懸命だった。2人は心地よい長椅子の上に座り、マッサージ師の手で体中が解さ
れて眠気を感じつつも夫妻のことを気づかい、必死に瞼を閉じない様我慢していた。
 
 
「あ、あの、それで、カエルの事を聞きたいのですが…」
 
 
 クロノは夢見心地になりながらも国王夫妻に質問した。
 
 
「うむ、カエルは優しい男だ。…彼奴1人で全ての悩みを抱え込んでしまい、我々に
 もどうしようもなかった。」
「彼は今も人間と魔族の狭間にあって苦しんでいた様でした。人間の姿に戻って帰っ
 て来たと思ったのに…残念だわ。」
 
 
 リーネはそう言うと顔を伏せた。
 マールが国王に確認の意味で聞いた。
 
 
「あの、やっぱり人に戻っていたんですね?」
「あぁ、少々カエル…いや、今はグレンだな。奴も歳を取っていたなぁ?」
「えぇ、でも、若い頃とはまた違った凛々しさがあって…」
「お、リーネ、わしでは不満か?」
「ふふふ、違いますわ。陛下は陛下でございます。」
「おー、そうかそうか。はっはっは!」
 
 
 クロノ達は埒の空かない空気を感じて白けつつ、尚も聞いた。
 
 
「カエルは何処に向かったか御存じですか?」
 
 
 王は腕を組むと暫く考えてからリーネに聞いた。
 
 
「ふむ、奴は帰ると言って帰っていったなぁ?」
「はい、セレモニーを済ませた後はすぐに帰宅の途につかれました。」
 
 
 リーネの言葉にマールは疑問に感じつつ聞いた。
 
 
「本当に帰ったんですか?」
「私達が知る限りでは彼は帰るとだけ言っていたわ。」
「…そうですか。わかりました。有難うございます。」
「いやいや、大した力になれんですまない。」
 
 
 2人はマッサージが終わると、国王夫妻に今宵の歓待に再度感謝を告げると部屋を
でた。その後は侍従によって客間に案内された。
 
 
「今宵はこちらのお部屋を御自由にお使い下さい。御用がありましたら私達は部屋の
 外で待機しております。なんなりとお申し付け下さい。必要な物は何でも用意せよ
 との陛下の御命令も出ておりますので、何でもお申し付け下さい。」
「ありがとう。おやすみ。」
「おやすみなさいませ。」
 
 
 2人は部屋の中に入った。部屋は古今変わらずガルディアの赤を基調にした上品な
デザインで装飾され、二人は、特にマールは自分の城に戻ったような感覚を強く感じ
た。
 
 
「この部屋…未来では私のダンスのお稽古の部屋だったのよ。」
「へぇ、そっかー、そうだよな。この城はこんな昔から変わらないんだもんな。」
「あら、覚えて無い?私達前にここで一緒に踊ったじゃない?」
 
 
 マールの問いかけにしばし悩むクロノ。しかし、ふと思い出した。自分たちの結婚
式でのダンスの事を。
 
 
「あ、そうか、披露宴のダンスのレッスンの部屋だ…雰囲気が違うから全然ピンとこ
 なかったよ。」
「もう、ムードも何もあったもんじゃないわ〜。」
 
 
 マールはそう言うとスタスタとベッドに歩いて行き座った。ベッドは国王が気を利
かせてキングサイズのベッドが一つだけあった。
 クロノもマールを追ってベッドに行く。
 
 
「そう怒んなよ〜。…って、まぁ、…とんだ新婚旅行になっちまったな。」
 
 
 クロノはそう言うとポリポリ頭を掻いていた。
 
 
「…良いわよ。別に。」
 
 
 マールはそう言うと服を用意されていたパジャマに着替えた。クロノも同じく着替
えはじめる。
 
 
「しかし、ここでもカエルの足取りはわからず仕舞いだったなぁ。」
「うん。どこに行ったのかしらね。」
「リーネは帰ったと言っていた。ということは帰ったのか?」
「だったら私達はフィオナの森の人々に騙されていたわけ?」
 
 
 2人は森のことを考えてみたが、フィオナ達がとても嘘をつく様な人達に思えず、
現実感が無かった。
 
 
「…そ、そうだよなぁ。う〜ん、あそこまでして騙す理由もないか。」
「でも、帰る場所ってあの森しか無いのよねぇ。」
「あぁ。そこだよな。あいつの帰る場所は他にあるのかってことだ。」
「フィオナの森じゃないとしたら、お化け蛙の森かしら?」
「いや、それも無いだろう。」
「…なら、蛙の実家?」
「実家?…あ、そうか、人間だもんな。すっかり忘れてたぜ。でも、あいつの実家っ
 てどこにあるんだ?聞いた事有るか?」
「無いよ。カエルは滅多に自分のことを話さないじゃない。」
 
 
 クロノは自分の質問の愚かさに苦笑しつつ、方向を修正して言った。
 
 
「そうだよなぁ。ん?でも、王様なら何か知っているかも?雇い主じゃないか?」
「そうね、でも、カエルは昔、王国騎士団には入らなかったって言ってなかった?」
「なら、サイラスの出身を聞けば良いさ。」
「あ、同郷だもんね!」
「よし決まりだ。明日は王様に聞いてから出よう。」
「うん。」
 
 
 二人は明日の進路が決まると、静かに就寝した。

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 お読み頂きありがとうございます。
 拙い文章ですが、いかがでしたでしょうか?
 
 宜しければ是非感想を頂けると有り難いです。励ましのお便りだと有り難いです
が、ご意見などでも結構です。今後の制作に役立てて行ければと考えております。
 返信はすぐにはできませんが、なるべくしたいとは思っておりますのでお気軽に
是非是非お寄せ頂ければと思います。

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