クロノプロジェクト正式連載版

第48話「新たなる影」
 
 
 典の後、グレンはそのまま広間を後にし城を出た。ガルディアの森を通る頃、
彼は何らかの気配を感じた。
 
 
「(…1・2・3・4・5…5人か…)」
 
 
 気配は寄ってくるでもなく、見張っているように囲んでいた。気配を探りつつ前
方を歩いていると、青い光が見えてきた。
 
 
「?」
 
 
 グレンは危険を感じたが、そこへ近付いた。その光は近付くにつれて次第に強く
なり、ついに姿を現した。
 それはゲート。しかもずいぶんと広がり切った状態になっていた。
 
 
「ゲート!?!」
 
 
 彼がゲートを確認した瞬間、次々に気配は動き出した!
 
 
「(来る!?)」
 
 
 グレンが避ける。
 目前をクナイが飛び、木に突き刺さる音が聞こえる。
 
 後方から気配が近付き切り掛かる。
 グレンは剣を抜き受け止め、切り返す。すると、後方の気配は素早く引き茂みへ
消えたかと思うと、前方から気配が現れて小太刀で切り掛かってきた。
 そこに新たなる気配が現れる。それはよく知った気配だ。
 
 
「パトラッシュ!」
「ワオーン!」

 
 
 パトラッシュは気配達に襲い掛かる。
 気配達はパトラッシュに次々に攻撃を繰り出すが、するりと避けて1人1人に攻
撃を仕掛ける。しかし、パトラッシュも捕らえたと思った気配がするりと消えてし
まうために、空振りに終わっていた。グレンが苛立ち叫ぶ。
 
 
「何者だ!!!名を名乗れ!」
 
 
 尚も執拗に攻撃が姿を見せずに行われる。
 切りが無いのでグレンは本気を出し、魔力を剣に込めると一気に地面に突き刺し
た。すると周囲一帯の地面が隆起し土の固まりが宙を飛び、敵全てに攻撃した。そ
れはまるでミサイル追尾のごとく。
 
 その攻撃で全ての気配が姿を現す。気配達は黒装束を着ており、それぞれに変わ
った武器を持っていた。彼等は姿を現すと次々に土に手を当てる。すると彼等の周
囲に土の壁が現れて、グレンの攻撃を瞬時に相殺してしまった。
 
 
「!?何て奴らだ。」
「…それは僕が言いたいね。」
 
 
 何処からとも無く声がした。
 
 
「誰だ!」
「ウゥゥゥ!」

 
 
 その声は上空から生じていた。
 空を見上げると、長い髪をした中年にさしかかる顔立ちの男が浮かんでいた。手
には杖を持ち、着ている服はこの時代より進んだ印象があった。
 
 
「僕はディア。君の名はグレン。その犬はパトラッシュか。」
「何故俺の名を…いや、何の為に現れた。お前達はこの時代の者では無いだろう。」
「ウゥゥゥ…」
 
 
 グレンの言葉に呼応する様に、パトラッシュが上空の男を睨み唸る。
 
 
「…その通りだ。さすがに時を駆けただけはある。」
 
 
 ディアと名乗った男はそう言うと、ゆっくり降下し地上に降り立った。
 
 
 
 ディア参上!
 
 
 
 グレンが剣を構える。
 パトラッシュも攻撃体制で構える。
 ディアは、そんな彼らの構えを見て不敵に言った。
 
 
「…やめたまえ。君を殺す為に来たわけじゃ無い。」
「散々攻撃を仕掛けておいて…よく言うぜ。」
「フフフ、すまない。君があの程度ならばそれまでと思っただけだ。ま、
 期待以上かな。」
 
 
 男はそう言うと、周囲の者達に目配せして控えさせる。グレンはそれを確認しつ
つ構えたまま言った。
 
 
「値踏みか。…随分余裕だな。痛い目見ても知らんぞ。」
「フフフ、僕は痛みは大好きだ。ゾクゾクするからな。負は己に耐え難い苦痛と快
 楽を与える。正しいことをしていたのでは決して味わえない…」
「…薄気味悪い野郎だ。」
「…僕はその気になれば、君を一瞬で殺せる。」
 
 
 ディアから莫大な魔力が噴出する。グレンは目を見張った。その魔力の量たるや、
今までに見たどんな敵さえも凌駕する底なしの威圧を感じる程のものがあった。さ
すがの彼も緊張し、額から汗が滴る。
 
 
「…皮肉なもんだろう?歴史のインフレーションは、本来後になればなる程強く作
 用するものなのだ。君の強さも歴史を体感したから得た物。…違うかな?」
 
「…」
 
「君はこの力が欲しくないか?この力があれば、君の守りたいものは全て守れる。
 それどころか憎い人間は誰独りとして近寄ることすら不可能になるだろう。森の
 建設には最高だと思うがね?」
 
 
 グレンは剣を強く握り、徐々に魔力を集中させながら答えた。
 
 
「生憎、俺には他人の力は要らん。力が欲しければ自分で作る。」
「誤解しているな。この力を与える事は出来ない。だが、君が欲するなら作り方を
 教えるというだけだ。不満かね?」
「…あぁ、大いに不満だ!その薄気味悪さ全てがなぁ!」
 
 
 グレンは自分も魔力を最大限に出力し剣を構えた。
 周囲の気配も構える。しかし、ディアは左手を振り上げ制止し、言い放つ。
 
 
「お前達は手出し無用!…フ、これは僕の遊びだ。」
「…何処までも気にくわねぇ!パトラッシュ、下がってろ!」
「ワン!」

 
 
 パトラッシュが後方に待機し、グレンを後方からの攻撃から守るように構えてい
る。
 グレンがさらに剣に魔力を込める。すると剣にひびが入り、遂にグレンの魔力に
耐えかねて粉々に崩壊してしまった。
 
 
「!?!」
「フフフ、丸腰だな。グランドリオンを手放したのは君の判断ミスだ。
 …さぁ、お手上げの時間だ。」

 
 
 ディアがステッキをグレンの額に向ける。するとステッキから光線が走り、グレ
ンに当るとそのままばったりと倒れた。
 気配達が素早くグレンの身体を捕獲すると、そのままゲートの中に飛び込んで行
った。
 
 
「ワン!?ウゥゥゥゥ!!!」
 
 
 パトラッシュがディアに襲い掛かる。パトラッシュは溜めた魔力を一声と共に放
出した。
 
 
 ワォォォォォォン!
 
 
「チ、煩い犬だ!」
 
 
 ディアはパトラッシュの魔法を正面から素手で受け止めると、粉々にかき消した。
そしてパトラッシュにもステッキを素早く振るうと光線が飛び出して、そのままパ
トラッシュも意識を失って倒れた。
 
 
「…ふぅ。割に合わんな。」
 
 
 ディアはそう呟くように独り言を言うと、パトラッシュを浮かせて連れ、彼もゲ
ートの中に消えていった。

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