クロノプロジェクト正式連載版

第64話「冷めた声」
 
 
 音が聞こえ、
 強い日射しが降り注ぐ。
 
 
 遠い地平まで続く、
 青いパノラマの中にきらきらと輝く海。
 
 
 爽快な風と心地よい光が気持ち良い。
 そんな中を俺は走る。
 
 
 温もりの中で笑いながら、
 浜辺に続く足跡を追って。
 
 
 前を走る彼女。
 
 
 ブロンドの長い髪が輝き、
 愛する人が振り向き微笑む。
 
 
 近づきたい。
 だけど、
 
 
 …幾ら追っても、止まってくれない。
 …幾ら呼び掛けても、止まってはくれない。
 
 
 ただ微笑み、
 そして、走るのみ。
 
 
 
「ハハハハ、待てよマールー!」
「フフフ…」
 
 
 
 浜辺の波打ち際を笑いながら駆ける二人。
 海はどこまでも青く、空は抜けるような青空。
 日差しを遮る物は何もない。
 
 
「おい、待ってくれよぉ〜。速いって。」
「フフフフ…」
 
 
 マールを追うクロノ。
 しかし、何故か彼女には追いつけない。
 
 
「どうしたんだよー?少し休もうぜ!なぁ?」
「フフフ…」
「笑ってないで返事してくれよ〜、マール。」
 
 
 クロノが彼女に話し掛けるが、笑いはするが応えてくれない。
 彼は本気で走ってマールの腕を掴もうとする。しかし、その時突然視界全体が
暗転した。
 
 
「!?」
 
 
 青い海は黒く濁り、青い空は鉛色に沈む。
 突如突風が吹き、クロノは目を閉じた。
 
 気配がする…殺気立つ周囲。
 
 風が唸り、波は高まり、急激に冷気が立ちこめる。
 クロノは異様な雰囲気に、マールを守ろうと必死に叫んだ。
 
 
 「マール!なんかおかしいぞ!こっちに来い!早く!」
 
 
 しかし、彼女は一向に足を緩める気配は無い。
 クロノは全力で走り、彼女の腕に手を伸ばす。
 だがその瞬間、前を黒い気配が覆った。
 
 
「お前は!?」
 
 
 気配は見覚えがあった。
 黒く長い髪をし、手に大きな赤く透き通る宝石をはめたステッキを持った男、昨
夜現れたディアに間違いない。
 ディアは右腕を伸ばし彼女の肩に手を置くと、黒い風が巻き起こり猛烈な速さで
前へ進みだした。彼は彼女を浮かせ、悪趣味な微笑みを讚えながら彼方に消えよう
としている。
 クロノは必死にマールの名を呼び走り続けた。
 
 
マール!!!…………………………?夢?
 
 
 クロノは目覚めた。
 そこは布団の中。薄暗い部屋で、ベッド脇の棚にある小さなランプの明かりでな
んとか仄かに照らされてわかる程度の明るさだった。
 
 
「…!、マール?」
 
 
 彼女の名を呼びつつ辺りを見回すと、全く見なれない家の中にいることがわかる。
考えてみればルッカの家に向かい、橋を渡り切ったところで記憶は途切れていた。
 
 
「…」
 
 
 呆然としていると、部屋のドアを誰かが開ける。
 
 
「!」
 
 
 部屋に入って来たのは子どもだった。
 青い髪をしたその子は、年齢は12歳くらいだろうか?だが、服装を見る限り、
あまり豊かな暮らしはしていないと見える。
 少年は冷めた口調でクロノに言った。
 
 
「目が覚めた?」
「あぁ。君は?…いや、ここは何処だ?」
「ここはルッカハウスさ。」
「ルッカハウス!?ここが…、」
 
 
 クロノはもう一度よく部屋を眺めるが、過去の記憶にあるルッカの住んでいた家
とは似ても似つかない。
 
 
「そんなばかな、ここはルッカの家じゃない。少なくとも俺の知るルッカの家じゃ
 ない。」
「そうだよ。正しくは再建された家さ。」
「再建?どういうことだ?どうして?」
「…10年前に燃えたんだ。」
「燃えた?何故?」
「…焼き討ちさ。」
!?…念のために聴くが、ルッカは今?」
 
 
 クロノの問いに少年は俯く。
 
 
「…もういないよ。」
「………。」
 
 
 クロノは強く目を瞑り布団を叩いた。
 しばし沈黙が流れる。
 
 
「…そうか。ところで、一緒にいたマールとシズクは起きているのか?」
「残念だが、マールさんはさらわれたよ。」
「なんだって!?誰に?」
「…詳しい話は後で話すよ。とりあえずお腹も空いてるだろ?着替えなよ。ご飯の
 用意をするから。」 
 
 
 少年はそういうと部屋を出ようとした。
 クロノはいてもたってもいられず早く知りたかった。ベッドを飛び出して少年の
腕を掴む。
 
 
「教えてくれ!今すぐ!」
 
 
 少年はクロノの目を見て言った。
 
 
「…ははは、急いだってそんな格好じゃ何もできやしないよ。」
 
 
 少年の目は軽蔑も混ざる冷酷な目だった。
 クロノは引かざるを得ない何かを感じた。
 
 
「着替えはそこの棚に置いてある。」
 
 
 少年はそういうとクロノのベッドの右隣の棚を指差した。そこにはクロノの服が
綺麗に畳まれて置かれていた。
 
 
「荷物はその下に置いてある。じゃ、着替えたら隣の部屋に来てくれよ。食事の後
 に話すから。」
 
 
 少年はクロノにそう告げると部屋を出て行った。

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