クロノプロジェクト正式連載版

第65話「子ども達の家で」
 
 
 年が指摘した通り、確かに腹も空いていた。
 クロノは少年の言う通り大人しく着替える事にした。着替えを見ると、どうやら
身ぐるみはがされる事は無かったらしく、一式揃っていた。
 クロノは着替えながら考えた。
 
 
 
 一体自分はどれくらい眠っていたのだろう。
 …マールは何者かに連れ去られ、シズクの行方も分からない。ただ、先ほどの少
年の話ぶりだと、シズクは起きて彼らに何らかの説明をしたのだろうことは推測が
ついた。
 
 
 …思えば自分達の存在が何故か知られている。
 トルースの街で見た新聞の通りならば20年もの月日が経過している。普通なら
自分達の姿はこの時代と切り離されていて不思議じゃない。
 だが、人々は自分達の姿を「クロノ」と「マール」と認め、そして、自分達を明
確に追う敵がおり、そして、彼らも的確に自分達の姿がどういう姿をしているのか
知っている様にも思える。
 
 
 自分の立場が普通の暮らしを約束している様な立場にはいないことは、十分わか
っているつもりだった。好きになった相手が王族だった時から、彼女の重みを分か
ち合えたら良いと思っていた。
 しかし、20年といえば遠い昔だ。若い王太子夫妻も良い中年である。本来なら
ば年老いた自分達の姿を追い求められるはずが、今起きていることは「若い自分達」
が追われているということだ。
 
 
 確かに追われるようなことはした。
 城への潜入は十分にテロリストと使命手配されても不思議じゃない内容であり、
その点で身に覚えはある。だが、それがクロノ「殿下」であったり、マールディア
「姫」と特定出来る様な証拠は何ら存在しない。せいぜい、とてもよく似たそっく
りさんと思われるはずだ。
 
 
 どうやら何か自分の計り知れない様な裏があり、いずれそれと対面する日が来る
のかもしれない。
 
 
 あのディアという男も自分のことを「クロノか」と問い掛けた。
 彼がその裏の何かを知る者であろうという事は推測できる。だが、それも確証が
あるわけではない。
 
 
 今は本当に前が見えない。突きつけられる現実が痛い。
 でも、…彼女だけは…
 
 
 
 
 「(ぜってぇー離さねぇ!!!)」
 
 
 
 
 クロノは身支度を整えて部屋を出た。隣の部屋は思ったより広く居間の様だった。
 そこには先ほどの少年と、その少年よりも小さな子供達が3人いた。
 
 
、クロノさん、こっちこっち!」
 
 
 子供達が一斉にやって来て、わいわいクロノの手を引きテーブルに案内する。
 クロノは引っ張られるままにそのままテーブルのもとへ行き椅子に座った。先ほ
どの少年も一緒にクロノの向かい側に座る。
 テーブルの上にはパンとスープが既に置かれていた。
 少年は席に着いたクロノを見ると問い掛ける。
 
 
「まず聞くけどさ、あんたは本当にクロノさんなのか?あんたの仲間のシズクって
 ねーちゃんはそう話してたが、オレには正直信じられない。」
 
 
 クロノは少年の言葉を耳に入れつつも黙々と食事を摂っていた。彼の話に区切り
が付いたところで、食事を続けながらクロノは答えた。
 
 
「信じてどうするってんだ?」
「え?」
「君がどう考えていようと勝手だが、俺はこの名前で生きてきた。」
「…。」

 
 
 クロノはそう言うとまた黙々と食事を摂る。…思っていたより旨い。そう思うと
空腹もあり食が進む。
 
 幼い子供達は二人の緊迫した空気に圧倒されて、どうして良いかわからないでい
た。そこに、玄関の扉が開く音がした。遠くで声がする。
 
 
「ただいま!」
「あ、ナリヤ姉ちゃん達だ!」
 
 
 二人の声が聞こえる。
 1人は男性、もう一人は女性だろう。…年は自分とそう変わらない年代だろう。
 
 声の主はドアを閉めると、廊下をゆっくり歩いて向かってくる音がする。
 子供達は声の主の方に向かって一斉に走っていった。彼らがその主達に遭遇した
のか、楽しげな話声が聞こえてくる。それは近付いてやがて居間にやって来た。
 
 
「まぁ、起きていたんですね。あなたを見つけた時は驚きました。
 ようこそわが家へ。」
 
 
 女性がにっこり微笑む。
 少年たちが帰宅した母に集うように集まり、彼女に話しかけている。
 
 
「トーヤ兄ちゃんがクロノさんを虐めてたんだよ!」
「え?ほんとなの?」
「うん、怖い顔してさっきから話してたもん!」
「…、トーヤ、どういうこと?説明してちょうだい。」
 
 
 ナリヤに言われて、トーヤはばつが悪そうな顔をして言った。
 
 
「…こいつ、虐められるとかって歳かよ。」
 
 
 トーヤはそう言うと席を立ち走り去る。
 ナリヤがそれを止めようとするが、後から部屋に入って来た男、フォルスが彼女
の肩に手を置きそれを制止する。
 
 
「トーヤ!」
「…やめておけ、あいつは俺に任せろ。クロノさん、子どもの言ったことだ、悪く
 思わないでくれ。」
「あぁ。」
「じゃ、行ってくる。」
 
 
 フォルスはトーヤを追って外に出て行った。
 ナリヤが困った表情でテーブルにつく。
 
 
「息子が変なことを言ってしまったようで、ごめんなさい。あの子は難しい年頃で、
 私達も困っているんですよ。」
 
 
 ナリヤが謝罪した。どうやら彼女達の息子らしい。しかし、ここには沢山の子ど
も達がいるが、彼らは全員実の子どもなのだろうか?それとも…そんな疑問も沸き
つつも、クロノは彼女の謝罪に返答した。
 
 
「…いや、良いよ。彼の言い分にも一理あるんだ。」
「え?」
「こっちの話さ。それより詳しい状況がわからないんだ。頼むから教えてくれない
 か?マールは?シズクは?二人は今何処にいるのか。」
 
 
 クロノの問い掛けに、彼女は曇った表情をしつつも話し始めた。
 
 
「…それを話す前に、まずここを知らないとならないでしょう。
 ここは監獄島と呼ばれています。」

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