クロノプロジェクト正式連載版

 第67話「赤髭のゲルディ」
 
 
「…はパレポリでも指折りの札付きの悪と言われた男、
 赤鬚のゲルディが率いています。

「そいつはどんなことをやらかしたんだ?」
 
 
 クロノの問い掛けにピエールは一息つくと言った。
 彼の話では、「赤髭のゲルディ」と呼ばれる男はパレポリで組織的犯罪手口で大
儲けをしていたマフィアのドンだという。
 
 その内訳は様々で、麻薬や武器の密輸から強盗や詐欺まで…犯罪のデパートと呼
んでもいい手口の広さで有名だった。だが、現在のパレポリ建国と共に警察力が強
化された結果、次第にその勢力を狭められ、現在の陸軍将軍ノイアによって捕らえ
られたという。
 
 ピエールは苦々しく言った。
 
 
「彼は他の囚人と違い、賢い。」
「今まではどうやって戦ってきたんだ?」
「彼等はナリヤも話した通り、パレポリから兵器の供給を受けています。それらの
 兵器はパレポリ側も用心してか、そう大量ではないのですが、ゲルディは巧みに
 利用してきます。時には一気に仕掛けてくることもありますが、奴は決して無理
 をしない。引き際を考えてじわじわと我々の戦力を削ぐことを主眼に置いた戦い
 を仕掛けてくる。」
 
 
 ピエールの話が本当ならば、確かに面倒な相手のようだ。そして、自分の戦力を
正しく把握している人間であるという事も言える。だが、パレポリからの兵器供給
を受けていてすら、一気に仕掛けられない事情があるのだろうか?
 …聴いた範囲では武器の供給すら無いのがここの人達の立場だ。彼らがそれほど
に強いためにゲルディは手出しできないのであるとすれば、それも気になった。
 
 
「こちら側はどう対抗してるんだ?」
「我々はルッカ殿の残して下さった数々のES科学兵器によって対抗してきました。
 しかし、それでもエレメントによる攻撃は辛い。そこで我々は防御シールドの開
 発を進めて、エレメント攻撃からのシールドを作り上げました。」
「防御シールド?」
「魔法攻撃を遮断する魔法の盾です。とはいえ、まだ性能は低く、完全な防御は無
 理ですが、一部は遮断し大半の攻撃を温くする事はできる。そうやって防御しな
 がら、こちらも最近はメディーナ製のエレメント兵器を利用して攻撃をするので
 す。」
 
 
 クロノは思っていたよりずっと進んでいる戦闘に感心した。
 あの襲撃後の20年で、ガルディアの人間もパレポリ並の魔法による戦闘が出来
る時代が来ている。この事実が必ずしも絶望がこの世界を覆っているわけではなく、
この閉塞感をそれぞれの力で切り開こうと、みんな頑張ってきた足跡が続いている
んだろうと思った。
 
 だが、そこに一つ気になる言葉が出てきた。
 
 「メディーナ製のエレメント兵器」とは何だろう?
 そして、その前にどうしてメディーナはこの監獄島に関わる事ができるのだろう?
 何やら裏が有りそうな気がしてきた。
 
 
「その、メディーナ製のエレメント兵器?って、どっからくるんだ?」
 
 
 クロノの問い掛けにピエールは穏やかに答えた。
 
 
「メディーナの貿易船が毎月定期的にこの海域を通ります。その時に互いに荷物を
 海に浮かべて、交換貿易をしております。パレポリ側も監視をしておりますが、
 メディーナとの同盟もあって、干渉はしてきません。」
「…なら、その手を使って亡命を考えないのか?」
「…実際考えました。しかし、我々全員が一度に行くことは無理です。ただでさえ
 勢力均衡を保つのが難しい状況で、少しでも戦力が減れば誰かの犠牲は否めない。」
 
 
 そこに後方から声がする。
 
 
「まぁよ、亡命ってのは後ろ向きだろ?こっから去ったらそれこそパレポリの思う
 つぼさ、だったら奴等を出来るだけ困らせたいじゃないか。俺達はあくまで勝ち
 に行くつもりさ。いずれは必ず。」

 
 
 その声は先程トーヤを追って外に出た、父親のフォルスの声だった。
 突然の発言に全員がフォルスを見る。
 
 
「フォルス?戻ってたの。トーヤは?」
 
 
 ナリヤはトーヤのことが気になり尋ねた。
 フォルスは安心するように微笑んで彼女に言った。
 
 
「ブランカが見ている。大丈夫だ。」
「そう。」

 
 
 彼女は家出したわけじゃないと聴いて安心した様だった。
 そこにピエールがフォルスに話しかける。
 
 
ふぅ、わしと同じように音を立てずに入ってくるとはのぉ。」
「ハハハ、爺ちゃんと育って来たからな。」
 
 
 頭をぽりぽり掻きながら笑ってそう応えると、フォルスはピエールに椅子に腰掛
けるよう促し、ピエールもそれに応じてクロノの対面の空いた椅子に座った。
 フォルスも空いた椅子に座る。
 ピエールはフォルスが座り全員が座った事を確認すると、一息ついて言った。
 
 
「ふぅ、しかし、フォルスの言う通りだの。わしらは歳を取り過ぎた。今は産まれ
 た時から戦争しか知らぬ不幸な子供達に未来を託すしかないというのは、なんと
 も情けないやら…。」
「へん、爺ちゃんが心を痛めることはないさ。俺達はしたいように生きているだけ。
 好きでやっているんだから。それに、俺等を誰だと思ってる?俺等はルッカの子
 だ。簡単に諦めたりはしない。」
 
 
 フォルスの言葉にナリヤも続く。
 
 
「そうね。ルッカ姉さんは決して諦めない人だった。」
 
 
 二人の言葉を聞いて、クロノはルッカが彼らとの時間も変わらずに彼女で有り続
けたことを確信した。そんなことを思うと、なんだか心温まる気がした。
 自分の知るルッカは、こんなに頑張って彼らを守った。だが、そのことを思うと
急激にある疑問が湧きつつあった。だが、それはここで伝えても答えは出ないよう
に思えた。
 
 
「…俺の知るルッカは、俺より一コ上の近所のねーちゃんで、いつも俺の事ガキ扱
 いしてる、悪く言えば口うるさい姉御だった。でも、口うるさいのは俺の事を心
 配してくれたからだし、ガキ扱いは俺自身が幼過ぎたから。あいつはたぶん俺よ
 りずっと大人だったんだろうな。昔から俺の分からない難しい世界の中で、普通
 なら諦めちゃう様なことも諦めずに突き通して見せるんだ。そして言うんだ…」
 
 
『サイエンスに不可能は無し!』
 
 
 クロノと同時にフォルスとナリヤも一緒に同じ言葉を口にした。
 クロノはそれに一瞬驚くが、にっこり微笑んで笑った。
 
 
「ははは、ところで、シズクは一体どこに?」
「あ、ごめんなさい。シズクさんは一足早く1人でここを出て行きました。制止し
 たんですが、マールさんを救うと聴かなくて…。」
 
 
 ナリヤが困ったような申し訳なさそうな表情で答えた。
 クロノは微笑んで、
 
 
「そうか?んじゃ、俺もこーしちゃいられないな。よし、俺は行くぜ!
 俺も止めようったって止められないからな。」

 
 
 クロノはそういうと立ち上がる。
 それに合わせてフォルスも立ち上がった。
 
 
「ハハ、クロノさんは変わらないな。姉さんの言ってた通りだ。それでこそクロノ
 さんか。なぁ、そう焦らずに聴いてくれ。俺達もあんたに協力しよう。だが、ま
 だ全面攻撃に出る時期じゃねぇ。」
「というと?」
「今は奴等との均衡も微妙なところにある。だが上手くすれば全面的に戦わずとも、
 奴等を弱体化させられるかもしれねぇ。…魔法使えるんだろ?」
「あぁ。使えるぜ!」
「よし!じゃ、裏の小屋の地下にいるブランカを訪ねてくれ。俺達は作戦の準備を
 している。」
「わかった!」
 
 
 クロノは了解すると、フォルスの手をがっちりと握り握手した。そして、手を放
すと部屋の外へと出て行った。

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