クロノプロジェクト正式連載版

第68話「闇の中」
 
 
、うぅ……」
 
 
 冷たい水滴が頭に落ちるのを感じ、思わず目が覚めた。
 
 しかし、視界は真っ暗だった。
 手足を動かそうとするが、それも手足がきつく縛られていて不可能だった。
 遠くから話声が聞こえる。だが、くぐもってよく聴こえない。遠く?いや、どう
やら何かで顔を覆われているらしく息苦しい。
 
 
「…捕まえたが、どうしやす?マジであの方の言う通りにするんすか?オレ、こん
 な上玉放っとくの我慢できねぇよ。」
「コイツに手を出すのは止めとけ。後でどうなっても俺は知らねぇ。あの御方は主
 義に煩い。主義に反した奴がどうなったかは…覚えているだろ。」
「…。」
 
 
 靴音が聞こえる。
 話している一方が少し遠ざかった。
 
 声は聞こえている範囲で二人。
年齢は若そうな声と、もう一人は中年にさしかかっているだろう声。
若そうな声の方は軽そうな性格を予想させるが、中年の方には威厳があり、とても
賢そうに聴こえる。
 
 
 何かを開く音がする。ドア?
 その瞬間、風が入ってきた。
 
 
「…力とは非情な判断を下すものだ。俺等にはそれがねぇ。逆らいたければルール
 に従って動くんだな。それができねぇやつは従うんだ。」
「へい…。」
「わかったなら、こいつをあの御方が仰るように扱え。」
「ちっ」
 
 
 若い男が中年の男の命令に従って近づいてくる。
 何をするのだろう?…マールは思わず身構えた。だが、その行動は彼女も驚く程
の予想外の展開を見せた。
 
 
「ぷはぁ…」
 
 
 マールの顔を覆っていたマスクが外された。
 彼女は息を大きく吐くと、目をぱちくりと開き辺りを見回した。
 そこは薄暗い部屋の中で、前方の風が吹いてくる方に窓があり、そこからの光が
部屋を照らしていた。
 窓側に立つ40代くらいの赤い顎鬚を生やした男が、外を見ながら横目に鋭い目
付きで、彼女の近くにいる若い男を見据えながら指示する。
 
 
「縄も解くんだ。自由を与えてやれ。」
 
 
 先程の中年の声はどうやらこの赤髭の男で間違いない様だ。そうとわかると、こ
の若いだらしなさそうな男が先程の若い方だろう。
 マールは状況を確認すると、赤髭の男に向かって言った。
 
 
「あら、良いのかしら?私に自由を与えてどうなっても知らないよ?」
 
 
 若い男は彼女の言葉を聞いて、大層不満そうに赤髭の男に訴えた。
 
 
「こんなこと言ってますぜ?」
 
 
 若い男の訴えに、赤髭の男は外の風を感じつつ、横目にマールを見て言った。
 
 
「フン、強気の女は好きだぜ。だがな、俺達も考え無しに解いたりはしない?見く
 びらない事だな。」
「吠え面かいても知らないわよ!」
 
 
 マールも負けじと赤髭に反発して見せる。そんな彼女を見て不安な面持ちの若い
男は、半ば訴えるように赤髭に再度確認する。
 
 
「おい、ホントに良いのか?」
「…何度も言わせるな。解いてやれ。それともお前はこんな女にも負けるほどか弱
 い奴なのか?」
「んだと!?…ち!」
 
 
 若い男が縄を解く。
 マールはその時を待ってましたとばかりに勢い良く男の股間目掛けてパンチし、
立ち上がると同時に膝蹴りを加える。男は急所攻撃に悶絶する。
 
 
「さぁ、あなたの番よ!」
「ぐ、ぐぞぉ………。」

 
 
 若い男は泣きっ面で必死に痛みを堪えてうずくまっていた。
 
 
「がっはっはっは、こりゃ傑作だ。
 女の言う通りになったな?ゴンジ。」
「笑ってなさい。すぐにあなたもそうしてあげる!」

 
 
 マールは手を突き出して構えるとアイスを放った。
 無数の氷の刃が窓の男目掛けて吹き飛ぶ。
 赤髭の男はそれを見てニヤリと笑みを浮かべると、手を前に出してアイスの魔法
を、なんと受け止めた。
 
 
 
「!?」
「可愛い顔なら何をしても良いってもんじゃない。
 時には淑やかさも学んだ方が身の為だぜ?お姫様よ?」
「え!?」

 
 
 マールのアイスが男の力で逆に押し戻されてくる。必死に魔力を注ぎ込むが追い
付かない。彼女はアイスの出力を越えてアイスガ並みの魔力へ増強するが、それで
も男の攻撃は防ぎ切れそうになかった。
 
 
「な、何なの!?」
「…魔法は、あんたらだけの特権じゃないってことだな。」
「そんな…キャァアアアアアアアアア!!!」

 
 
 彼女の魔力が完全に押し戻され、もろに冷気の魔力の直撃を食らう。
 マールの体全体が巨大な氷に閉ざされたかと思うと、瞬間に氷は粉々に砕けて解
放された。そして、そのままその場に倒れた。
 …既に気絶していた。
 
 
「…魔力を使う人間か。あの御方が目をつけるだけある。」
 
 
 赤髭の男がそうつぶやき見ていると、近くでうずくまっていたゴンジが、ようや
くよろよろよろめきつつも立ち上がる。
 
 
「ゲルディ、なんなんだこの女?
 それに、あんたの魔法にこんなに耐えられる奴って…」

 
 
 ゴンジは驚くばかりだった。
 今では魔法を使う人間はそう珍しくないとはいえ、彼が見たものはエレメントで
はなく正真正銘の魔法であり、さすがに本物の魔法を使う人間はまだまだ珍しい存
在といえる。それだけに彼女の正体が気になった。何よりゲルディの言う通り、こ
の女は『あのお方』も注目している存在だ。
 
 
「…この女はマールディア・ガルディア王女だ。」
「えぇ!?マジ?あの昔の王朝の?」
「マジだ。」
「…なんで人間なのに魔法つかえるんだよ?つか、若過ぎねぇ?」
 
 
 ゴンジの疑問は誰もが考えるだろう疑問だった。ゲルディ自身も最初はそうだっ
た。しかし、今現在目前に存在する女は間違いなくマールディア王女であると確信
できた。それは過去の新聞に載っていた記録と違わぬ顔立ちは勿論、普通の人間に
は到底真似できない力がそれを証明していた。
 
 
「…その昔、『歴史を救った』と讚えられた少年と少女がいた。一人はクロノ。も
 う一人はマール。彼らは過去を変え、未来の未曾有の大災害を救ったという。」
 
 
 ゲルディが唐突に語り始めた。しかも、自分の問い掛けと全く脈絡無さそうなこ
とをだ。ゴンジがうさん臭そうに言った。
 
 
「なんだそりゃ?」
「まぁ、聴け。」
 
 
 ゲルディがそう一括すると、ゴンジは素直に従った。
 それを見て再び続きを話し始める。
 
 
「…彼らはその真偽はともかく、あのヤクラが企てた陰謀を見事に打ち破ってみせ
 た。」
「マジか?あのデブめっちゃ強ぇぞ?」
「あぁ、だが、その大捕り物が凄くてな。彼らは不思議な力でヤクラの出す凶悪な
 力を打ち破ったと記録されている。」
「魔法か?」
「そうだ。記述ではクロノは稲光を起こし、マールは氷を呼び出したとある。」
「氷…マールはマールディア王女ってことか?」
 
 
 ゲルディはゴンジの問い掛けに静かに頷くと続けた。
 
 
「…そして最後の謎だ。パレポリによるガルディア攻撃で城が陥落した翌日、国王
 の遺体は晒し者にされたが、王太子夫妻の遺体はさらされなかった。なぜだと思
 う?」
 
 
 ゴンジは頭が混乱した。
 ゲルディの言う内容は、彼らが20年前にパッと消えて今パッと現れたとでも言
いたげである。そんなことが可能なのか、…いまいち腑に落ちないものが有った。
 
 
「真面目に言ってるか?俺をからかってるんだろ?」
「…いくらお前が馬鹿だからと、俺がからかった事が有るか?」
「…」
「今、目前の存在が現実だ。何より『あの方』が探していることを考えてみろ。」
「…何が起こってやがるんだ。しかし、そうならそうと、先に言ってくれよ。」
 
 
 ゴンジは不可解だがなんとなくわかった。
 ガルディアの王女という話なら、誰でもそりゃ飛びつくだろうと。
 そんなことを考えて感心しているゴンジに対し、ゲルディは釘を刺す様に言った。
 
 
「…要らん煩悩を膨らませるから夢が壊れるのさ。ま、言ったところでお前に変化
 があると思わんが。」
「んだとぉ!?…ちっ。」
 
 
 ゲルディはゴンジにマールを背負わせると、他の部屋へ運ぶ様に指示した。

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