クロノプロジェクト正式連載版

第78話「本拠地」
 
 
 人達の本拠地は島の西端にある。
 小さな港があり、小屋が数軒あるまん中に一際大きな建物が一つ建っている。その建
物が基地であり、ゲルディの家であった。
 周囲は既に人気も無く静かだった。
 
 
「わしらは外で待機して見張っておる。用心するのじゃぞ?」
「わかってるぜ。爺さん達も気をつけろよ?」
「うむ。」
 
 
 フォルスを先頭に建物に入っていく。後に彼を含めてクロノ、シズク、ナリヤの4人
は代表で入って行く。
 
 基地の中は何も仕掛けがなく、素朴な作りで普通の家と言えた。入ってすぐ正面には
地下への階段があり、左側へ行くと幾つかの部屋があった。
 まずクロノ達は右奥から一つ一つドアを開けて中を見て行くが、人気も無く拍子抜け
するほどに誰もいなかった。彼らは1階に誰もいないことを確認すると地下へ降りた。
 
 地下には鉄格子の牢屋が幾つかあったが、その奥に一つ部屋があった。どうやら、こ
の部屋がこの施設の最後の部屋と見て間違いなさそうだった。
 彼らは通路を静かに歩いて近づいた。奥に進むに従ってクロノは威圧のようなものを
感じた気がした。しかし、それはほんの一瞬の過るような感覚だった。だが、彼にはそ
れだけで充分に感じた。
 クロノが全員の歩みを止めて構えるように促した。
 四人は両サイドに分かれると、フォルスの合図でドアを開けて突入した。
 
 素早く突入してリストガンを構える四人。
 室内には椅子に座ると、縛られたまま立たされているトーヤの姿があった。
 そして、それら二人の背後にはガルディア城で出会ったあの男とゲルディの姿があっ
た。
 男は笑みを浮かべて四人を迎えると、左隣にいた赤鬚のゲルディが曲刀を持ち、縛ら
れ立っているトーヤの縄をしっかりと持っていた。
 猿ぐつわされたトーヤがクロノ達を見て叫ぶ。
 
 
「ンゴンゴーー!?!」
 
 
 トーヤの姿を見て、両親は無事な姿を見て彼の名を口にした。
 
 
「トーヤ!」
「あぁ!?」

 
 
 二人の姿にトーヤの目に涙が浮かぶ。
 クロノは目を閉じて座っているマールに呼び掛ける。
 
 
「マール、大丈夫か!」
「…」
「マール、おい!」

 
 
 クロノが何度呼び掛けようと、彼女は全く反応せず目を閉じて座っていた。
 
 
「そんなに急ぐことはない。目はいずれ開くだろう。」
 
 
 ディアが微笑んでクロノに言った。
 クロノは怒りを押し殺して言った。
 
 
「二人を離せ。今更俺達を出した所で何の意味がある。歴史はパレポリのものになった
 んだろ。これ以上何が望みだ。」
「それはそのまま返そう。彼らに何の価値がある?
 ほら、このように一筋傷を付ければ…」
 
 
 そう言うとディアは、爪でマールの首にすーっと傷を付けた。すると傷口から血が滲
み滴る。
 
 
「やめろぉ!!!」
「…良いね。君の怒りを感じる。怒りは良い。スッキリ爽快とさせてくれる。
 素晴らしい。」
 
 
 クロノは自分の中で何かが切れるのを感じた。その時には既に自分の体が動いており、
抜刀し切り掛かっていた。しかし、ディアが彼を凝視すると、クロノの動きは突然金縛
りにでもあったように止められてしまった。
 
 
「な!?くそぉ!!!」
「クロノ!」

 
 
 シズクが慌てて援護するため近付くが、彼女の動きもディアの振り向き様に封じられ
る。そして、時を同じくしてフォルスとナリヤも、ディアの力によって無力にも動きを
封じられてしまった。
 
 
「僕は無闇な殺生は好きじゃなくてね。純粋に感情的に興奮できる戦いであれば、形な
 んてどうでも良いと思っている。そう思わないかな?」
「なら、正々堂々戦え!!!」
「却下。」
 
 
 クロノの怒りの声もディアはそう言って退けると、マールの身体を突然浮かせた。
 
 
「何をする気だ!?」
「こうさ。」
 
 
 ディアはそう言うと指を弾いた。するとマールの姿が一瞬で消えた。
 クロノの目が点になる。
 
 
「何をした!?!」
「喚くことはない。…じゃぁな。」
「おい!待て!!!」
 
 
 ディアが消えた瞬間にクロノ達は動けるようになった。
 クロノはその瞬間に縛られていた力が解放された反動で前のめる。だが、すぐに体制
を立て直して、残るゲルディに詰め寄った。
 
 
「ディアは何処へ行った!」
「パレポリだろうよ。」
「なんだと!?」
「さぁ、この手を退いてもらおうか?」
 
 
 ゲルディはそう言うとクロノの手を掴み、一気に魔力で反対側の壁に押し返した。
 クロノは激しく壁に激突し呻く。
 
 強い重力の様な魔力の圧力がクロノの全身を押しつぶす様に執拗に支配した。そこに
シズクがすかさずゲルディの攻撃をそらす為に魔法を放つが、ゲルディはそれを容易く
片手で受け止めたかと思うと、自分の魔力でコーティングして指で弾き返した。
 シズクは驚き、とっさに跳ね返された魔法を新たな魔法で打ち落として防いだ。
 
 
「ぐぁあ、がぁああああ!!!!!」
「クロノ!?」
 
 クロノが一層強まる圧力に呻いた。
 痛みに呻くクロノを目前にして、フォルスは自分には何も出来そうも無い現実に歯痒
かった。
 
 
「くそぉ」
 
 
 シズクの攻撃さえ効かない相手に、三人はただ見ているしかなかった。
 そこにゲルディが語り始める。
 
 
「…力のない鼠が、所詮猫にかなうわけないんだ。鼠は鼠らしく、大人しくチーズでも
 噛んでるんだな。それが嫌なら…死しか無い。」
 
 
 彼の言葉にシズクが反応する。
 
 
「窮鼠猫を噛むわ。」
 
 
 彼女の言葉にゲルディは微笑すると答えた。
 
 
「フ、だが、所詮鼠だろ?噛んだ所で猫は致命傷になるわけじゃない。」
「それはどうかしら?当たり所が悪ければ致命傷になるかもしれないじゃない?」
 
 
 彼女の言葉にしばし考えると、ゲルディは静かに彼女の言葉を一部認めた。
 
 
「確かに致命傷にならんとは断言はできん。だが、それでも鼠は猫には勝てないさ。」
「そうね。まともな力では勝てない。認めるわ。でも、力は体の大きさは関係無いわ。
 知恵や仲間がある。」
「知恵か?フ、そう。知恵は確かに大切だ。だが、ただ抵抗するのは知恵ある行動じゃ
 無いな。それに、仲間とて数がいるから良いわけじゃない。」
「そうね。じゃぁ、あなたならどうするというの?」
「オレか?フ、オレは必要な力が無いなら従うさ。それが如何に嫌いな猫でもな。」
 
 クロノが抵抗しようと試みる。
 だが、ゲルディは容赦なくより強い魔力を込めて押し戻した。
 
 
「ぐあぁあああああああああ……」
 
 
 クロノの一際大きな叫びが辺りに響き渡る。
 その声は聞いているだけで痛かった。シズクの額から汗が滴る。
 彼女は静かに言った。
 
 
「…本当にそれだけ?」
「お前はどうするというのだ?」
「…そうね。私もあなたの考えがわからなくもないわ。」
 
 
 ゲルディがニヤリと笑った。
 彼女も不敵に笑みを浮かべて見せた。
 
 
「だろ?俺は少なくとも戦力は温存しておきたいのさ。」
「…だからあなたは組織的に動かして、わざと…致命傷を避けたと?」
 
 
 シズクの言葉にゲルディが笑みを浮かべながら頷いた。しかし、フォルスは彼らの
やり取りに反発する。
 
 
「なんだと!?じゃぁ、何か、お前は俺達のことも考えて
 戦ってたとでもいうのか!?
 あんなにいっぱい仲間を殺しておいて!!!」

 
 
 ゲルディは反発するフォルスに目を合わせると、見据えて答える。
 そこには微笑みは無かった。
 
 
「ほう、お前達の仲間の命は尊くて、俺の仲間の命は尊く無いのか?」
「その言葉、そっくりそのままお前に返す!」
 
 
 フォルスの怒りの言葉に、ゲルディは静かに答えた。
 
 
「フ、お前の目から見れば、俺の部下どもはみんな単なる犯罪者どもだろうよ。実際、
 俺もろくでもねぇと日頃から感じるよ。だがなぁ、命は命なんだよ。それに重いも
 軽いもねぇんじゃねぇのか。」
「…お前の言う言葉か!?そんなに大切だってんなら、
 何故戦うんだ!?嫌なら戦わなければ良いだろ!!」

ひよっこが。何も分かってねェ。お前等立場を分かってるのか?
 パレポリは俺等どちらも生かしておくつもりはねぇんだ。だから俺達を送り込み戦
 わせて共倒れを待っていやがるんだ。胸くそ悪い。だがな、それを分かってあから
 さまに反発してみろ?どうなる?」
 
「………。」
 
「フ、ひよこ頭でも分かったか。
 …俺は待った。
  勢力の均衡を保ち、互いを膠着状態にしておけば奴等も手出しはしねぇ。時には
 派手に戦闘して適当に犠牲をだしている限りは奴等も動かねェって寸法さ。
  そうやって時間稼ぎしながら、たまにパレポリからやってくる新入りの良さそう
 な奴を集めて、俺はいつかここを出る為に備えた。…だが、それはもろくも崩れた。
 …お前のせいでなぁ!!!!
 
 
ゲルディがクロノの方を振り向くと、一気に魔力の圧力をあげる。
 
 
「ぐあぁあああああぁぁ!!!!」
 
 
 クロノの全身に、より巨大な圧力が加わる。
 シズクが再び動こうとするが、今度は彼女さえも力で押さえ付けられ動けない。
 
 
「うっ、く…!?なんて魔力なの!?!」
「まだわからないのか。力が無いなら黙るんだ!」
「そうは行かないわ!私は止まることは出来ないのよ!」
「そうか、ならば考える暇さえ忘れさせてやろう。」
「あぁああああああああ!!!!」
 
 
 シズクにもずしりと重い圧力がかかる。その圧力は一瞬で背後の壁に彼女の全身を
打ち付けめり込ませる程の巨大な圧力だった。
 ゲルディはシズクをその魔力の中に押さえると、入口で動けずにいるフォルスとナ
リヤを見て言った。
 
 
「…そうだ。大人しくしていれば良い。」
 
 
 ゲルディはニヤリと笑った。
 その笑みは完全にこの場の全ての者を見下していた。
 
 
「…くっ。」
 
 
 フォルスは何か自分に出来る事が無いか考えた。しかし、付け焼き刃の魔法では太
刀打ち不可能な事は勿論、その肝心の魔法を使えるだけの魔力もこれまでの戦いの中
で使い果たしていた。
 今、目前に自分の息子もいるというのに、彼には息子を抱きしめる事すら出来ない
ことが悔しかった。しかし、この場で一番強いと思われたクロノやシズクも彼の手中
に収まってしまった現状で、彼に何が出来るだろうか。
 だが、ふとクロノの方を見ると、苦しそうにはしているが徐々に体を動かそうとし
ている。もしもゲルディの気をそらす事が出来れば………?

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