クロノプロジェクト正式連載版

 大変長らくお待たせいたしました。CP連載77話公開いたします。サイトの
トップでも出しておりますお詫びにありますように、少々様々な問題が重なった
ことで余裕が無い日々が続いておりまして、これが今月半ばまで続く予定になっ
てしまっております。
 最終話が近づいておりますが、それまでには一応落ち着くだろうとは思います。
しかし、もしかしたら何らかの遅れが今回のように生じてしまうことについては
残念ながら否定できません。その時は大目に見てくださると有難いです。(^^;
 
 では、77話をお楽しみ頂ければ幸いです。

第77話「赤きフォルス」
 
 
 然、何かが飛来し地面に着弾した。すると黄金の閃光と共に土が持ち上がり、大き
な岩となって黒装束達を攻撃する。突然の出来事でも即座に反応する黒装束。彼らのト
ラップフィールドがその攻撃を相殺し、彼らのボスへの被害は未然に防がれた。
 その間にも次々に囚人達の集団目掛けて、様々な魔法やエレメントと見られる攻撃が
飛来した。
 そして、大勢の足音が聞こえる。
 
 
 
 うぉおぉぉぉおおおおおおおお!!!!!
 
 
 
 大勢のルッカハウスの残存勢力が東側の森から大挙押し寄せてくる。その勢いに飲ま
れるように囚人達は次々に押されて後退を始めた。
 ゴンジが踏ん張れと鼓舞するが、その勢いを止める事は勿論、彼の命令すら既に無力
な響きとなっていた。そして、彼もまたその勢いに飲まれる様に後退を始める。
 少女もふわりと浮いて後に続いた。その視線は後方のルッカハウスの人々に向けて。
 
 
「おーーーい!!生きてるかぁ〜〜〜〜?」
 
 
 集団によって包囲から解放されたクロノ達の前にブランカが大声を上げてやってきた。
その後方からはピエールの姿も見える。
 
 
「ブランカ!?それにピエールも!」
 
 
 フォルスは馴染みの顔の無傷な姿に安堵した。
 彼の他の3人も仲間達の無事な姿に互いに安心した。
 しかし、どうやってこれほどの人数がリストガンを手にしてこれたのだろうという疑
問が過る。シズクがブランカに尋ねた。
 
 
「ねぇ、どうやってこれだけのリストガンを用意できたの?」
「あぁ、さっきも言ったけど、今ある数が1ダースで、あの時もおじい様方に手伝って
 貰ったのさ。ね?」
 
 
 ブランカそう言うと後方を見て微笑んだ。
 そこにはルッカハウスでシズクが避難させた老人たちの姿があった。彼らは今もリヤ
カーに部品を積んで黙々と組み立てていた。
 
 
「あら。………でも、そんなに簡単な物なの?」
「あぁ、そうだよ。基本的な設計は間違っていなかったからね。この天才の手にかかれ
 ば完璧さ!はっはっは!
 
 
 シズクは彼の根拠不明な自信はともかく、手際の良い用意に感心した。これだけの仕
事は誰にも出来るものではない。彼は確かに天才かもしれない。
 
 
 
 ボン!!!シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…
 
 
 
 突然後方で爆発音がした。
 全員が視線を向けると、後方の組立作業をしていた老人の一人が、暴発したリストガ
ンに巻き込まれていた。
 
 
「あぁ!?」
 
 
 ブランカは冷や汗をかいて即座に駆け寄った。
 どうやら老人が部品の接続をミスしたらしく爆発したらしい。彼は必死に老人の傷を
手当てすると、壊れたリストガンの修理に取りかかった。
 さすがにこの状況は一度は天才と思いかけた評価を、再検討せざるを得ないと周囲を
囲む誰もが思ったに違いない。
 半ば白けムードが漂う中、その空気を断ち切る様にピエールがクロノのもとに来て言
った。
 
 
「さぁ、一気に倒しましょう。」
 
 
 ピエールがにこりと微笑む。
 クロノが頷いた。
 
 
「皆の衆!ここが正念場ぞ!」
 
 
 ピエールの言葉に仲間達が呼応する。
 
 
「おぉ!!!」
 
 
 全員の用意が整っている事を確認すると、彼も敵軍目掛けて構えた。
 
 
「放てェ!!!!」
 
 
 ピエールの号令下、一気にルッカハウス陣営の仲間達が魔法を放った。魔法攻撃は一
気に数の上で勝った囚人達を壊滅させた。残った囚人達も戦意を失い逃走を始める。
 
 
「すげぇ!」
 
 
 思わずフォルスが言った。
 しかし、魔法攻撃も一ケ所だけ効かない場所があった。
 
 
 
「…所詮囚人ね。さぁ、雑魚の出番は終わったわよ?」
 
 
  
 アメテュスがそう言うと、彼女を囲む黒装束達が動き始めた。
 黒装束は一列に並ぶと対抗して魔法を放ち始める。彼らの魔法は少人数にも関わらず
ルッカハウス陣営と拮抗するパワーを見せた。
 
 
「うぬぬ、クロノ殿、ここは我々が押さえている間に攻撃を。」
 
 
 ピエールが言った。
 クロノ達4人は互いに頷くと、少女に向かって突撃する。
 その動きに対し黒装束は素早く反応し、彼らの正面突破を阻まんと魔法を打ち込んで
きた。
 
 
そうはさせんぞい!皆の衆、頂点を狙え!!!」
 
 
 ピエールがリストガンの照準を変更し攻撃した。
 敵は頂点という言葉に少女を一斉に囲むように保護した。しかし、彼らのもとには全
く攻撃は無かった。
 
 
 
 ゴォォォォォォォオオオオオオ!!!!
 
 
 
「!?」
 
 
 少女は素早く宙に浮いた。しかし、彼女以外の者は皆、突然襲った砂の雪崩に襲われ
て埋まったしまった。
 彼が定めた先は二つの砂山の頂上。風化の進んだ頂上は魔法による衝撃で一気に雪崩
を起こして崩落したのだった。
 クロノはその間、少女が放置した武器を素早く拾い跳躍した。そして、後方の3人に
武器を投げ渡した。
 
 その時ピエールは自分の力の限界を感じていた。
 元々病を患う老体に慣れない魔法を体力を振り絞って放ち続けた事で、彼の体から急
速に体力を奪っていた。だが、ここでそのような弱音を吐いてはいられない。
 今のこの瞬間が、おそらく彼が長年望み続けた千載一遇の時といえた。例えこの命が
尽きようと、今は全ての力を投じて彼らの道を開くことが全てと言えた。
 
 
「(目が霞む…、くぅ、ここで倒れてなるものか。)」
 
 
 そこに背後から突然彼の体に触れる者が現れた。
 それはブランカの手だった。
 
 
「ピエール一人の戦いじゃないんです。僕らにも良い所出させて下さいよ。」
「…ほぉ、お前もそんな口が出るような歳になったか。わしも歳を取ったな。」
「ははは、それだけ言えるなら大丈夫ですね。あなたは僕ら全ての父だ。僕らが立派に
 なる前に亡くなるのだけは、やめてくださいね。」
「ふむ、何時になる事やらのぉ。」
 
 
 ピエールは嬉しかった。
 自分が若い頃はまだ赤児同然だった彼らが、今では彼を立派に支えている。苦難の時
代が長く続き、彼としても自分がなんとかせねばならないと長らく背負い込んできた。
 しかし、時代もう彼らの手に委ねられていた。寂しくもあり、嬉しくもある。いや、
今は彼らの頼もしい姿に感極まるものがあったが、それは彼の心の奥底で仕舞っておく
ことにした。
 
 ルッカハウス側の人々は攻撃の手を緩めず、魔法を放ち続けた。
 黒装束は砂の中から出てくるも、彼らの攻撃に対応せざるを得ず足止めされていた。
 そこにクロノ達が素早く黒装束に近接し、白銀刀を抜き放ったクロノは中世でソイソー
より教わった刀身に魔力を込める技、「魔封剣」を試す。彼の剣は黒装束の強固なマジ
ックバリアを切り裂いた。そして、そこにすかさずシズクが突撃し格闘で仕留める。
 
 残るはもうゴンジとアメテュスだけ。
 
 クロノが構える。
 少女は一際強くマジックバリアを作り出した。その目はクロノを凝視している。
 クロノも刀身に一際強い魔力を込めて構えた。
 
 
「さぁ、覚悟しろ。」
 
 
 クロノが迫る。
 
 
「…これまでね。さぁ、後は任せましたよ?」
「へ!?」
 
 
 少女はそう言うと、なんと、突然姿を消してしまった。
 残されたのはゴンジ1人。
 マジックバリアの無い彼は完全に無防備なまま放置された格好となった
 あまりに突然の出来事に、クロノは正直、拍子抜けしてしまった。
 
 
 
「あわわわわわわ…ど、どないせいちゅーんだ?」
 
 
 
 ゴンジは慌てた。まさかこんなことになるとは彼も予想していなかったに違いない。
 そこにクロノの後方からフォルスが歩いてゴンジに近付く。
 彼のその手には、ナイフが握られていた。
 
 
 
「よぉ、ゴンジ?お前には散々やられたよなぁ?」
 
 
 
 フォルスはそう言うと、ゴンジに一歩一歩近付いた。
 ゴンジは思わず後ずさる。
 
 
 
「お、おい、たった1人の敵をそんな大勢で倒すのか?
 …そりゃ随分卑怯ってもんじゃねぇか?」
「…お前に言う資格ねぇだろ?」
 
 
 
 フォルスはさらに近付いた。
 ゴンジも再度後ずさる。全身から血の気が引くのを感じた。
 
 
 
「な、なぁ、話せばわかる!な?な?
 俺だって好きでこんなことしてるんじゃねぇんだ。仕方なくなぁ…?」
 
 
 
 フォルスは無言でゴンジの胸ぐらを掴んだ。
 ゴンジの足下に熱いものが湿る。目前の目は冗談ではなかった。
 
 
 
「ひ、ひぃぃぃぃ…」
「…。」
「許してくれよ、な?…ぐぁあああ!!!」
 
 
 
 フォルスのナイフは、深くゴンジの胸を貫いていた。
 
 鮮血が飛ぶ。
 …ゴンジは心臓を貫かれ絶命した。
 赤く染まったフォルスはナイフを抜くと、その場に立っていた。
 その心は彼の死を目前にしても、晴れる事は無かった。
 
 
「(トーヤ…)」
 
 
 多くの人を失った痛みや哀しみと共に、自分が罪悪感も感じずに彼の死を望んでいた
日々がここに一つの終わりを告げたのかもしれない。だが、彼にはまだ個人的にも倒さ
ないとならない敵がいる。そして、息子トーヤを取り戻す為にも気を緩める事はまだま
だ先の話と言えた。
 
 
 ルッカハウスの住人達が目を瞑り、黙とうする。
 
 
 死んで行った多くの者への祈りは、それぞれの中で様々な思いとなって込められてい
た。だが、ここで死んで行った本物の囚人達にも家族がおり、必死にこの場から逃れよ
うと攻め込んできていたのかもしれない。
 
 ピエールは赤く染まったフォルスの姿を見て思っていた。
 彼らは彼らの自由のために戦い、そして散って行った。自分達は確かに多くの者を失
い、命を賭けて敵を討ち自由を得る為に戦った様に、彼らもまた同じものを欲していた
はずだ。この戦いに本当の勝利者はいたのだろうか。
 
 …いたとすれば、この状況を作り出した真の立案者以外に考えられない。そして、そ
の存在はこの地にはいないのだろう。
 これはまだ平和への一歩に過ぎない。しかし、この戦いの勝利は大きな一歩に違い
ない。
 
 
 その後、クロノ達は囚人達の基地のある西の海岸を目指して進み始めた。

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