クロノプロジェクト正式連載版

第35話「再現 前編」
 
 
 カン!!
 
 
「ギニアス!もっと間合いをつめろ!」
「…むぅ。」

 
 
 カエルの声がギニアスに飛ぶ。そこにすかさずソイソーが声を上げた。
 
 
「ルーヴィル!相手に飲まれるな!」
「はい!」

 
 
 コン!!
 
 
 ギニアスの木刀がルーヴィルを執拗に狙う。ジリジリと間合いを詰めて行くギニ
アス。それに必死に抵抗を試みるルーヴィル。力の差はみえていたが…
 
 
「は!」
 
 
 ルーヴィルが気合いを込めて一気にギニアスの木刀を振り払う。
 ギニアスは突然の反撃に後方へ後退するが、ルーヴィルは暇を与えずに次々と木
刀を打ち込んだ。
 
 
「クッ」
 
 
 ギニアスが後退しつつ魔力を上昇させると剣の威力が急激に増加した。ルーヴィ
ルは剣を合わせる度に強烈な圧力を感じる。
 
 
「ぐぅ!」
 
 
 ギニアスが力任せに押し返そうとした。だが、ルーヴィルも踏ん張る。彼も自ら
の魔力を剣に込めてギニアスの魔力を振り払うと、急激にルーヴィルの木刀が硬化
した。ギニアスも驚く程の硬化を見せた木刀からの一撃は自分が投じる魔力とは明
らかに違い、今感じている力は木刀から伝わる実際の力の倍は重いものとなってい
た。
 思わず上手いと感じる程の剣と魔力の一体化だが、そう余裕のある状況でもない
ギニアスもいつもは使わない範囲の魔力を投じた。だが、勢いの付いたルーヴィル
に対抗するには遅きに失した。
 
 ついに抗しきれずギニアスは胴に一本入れられてしまった。

 
「そこまでだ!」
 
 
 カエルがルーヴィルの一本を確認し停戦を呼びかける。両者木刀を下げてカエル
の声に従う。
 
 
「よくやったな。ギニアスにまぐれでも勝てた事は誉めてやるぞ!」
 
 
 ソイソーに褒められたルーヴィルは若い魔族の青年だ。ルーヴィルは師匠である
滅多に褒めないソイソーに褒められてとても嬉しそうだ。
 
 
「有難うございます!」
「…なかなか良い剣だった。しかし、次の手合いはこちらが勝つぞ。」
 
 
 ギニアスが笑顔で握手を求めた。ルーヴィルはそれに応えて手を差し出し、握手
し言った。
 
 
「えぇ、こちらも良い修行になりました。でも、次も勝ってみせますよ!」
「そうか。楽しみにしている。」
 
 
 二人はそういうと握手をし終えた。
 
 
「さぁ、ルーヴィル。今日の修行は終わりだ。帰って構わない。
 …嫁さんが待ってるぞ?」
 
 
 ソイソーの冷やかしに、ルーヴィルは満面の笑顔で頭を掻き照れて言った。
 
 
「ははは、照れるじゃないですかぁ!はい。では、有難うございました!」
 
 
 ルーヴィルは鼻歌混じりに帰って行った。
 3人はそれを見届けるとギニアスが二人に笑って言った。
 
 
「フ、ハハハ、しかし、楽しい戦いだった。ルーヴィル殿はさすがに二人が入れ込
 むだけあるなぁ?」
「そうだな。ルーヴィルが一番俺達の新しい剣を受け継ぐのに相応しい素質がある
 のは確かだ。」
 
 
 カエルが頷き応えると、ソイソーも続けて行った。
 
 
「先天的な地形適応がこの森に適しているというのも大きいがな。」
 
 
 二人の評価はギニアスも納得するところだ。
 
 
「ルーヴィル殿は人柄も良い。皆から人望が有り、明るく若々しいこれからの時代
 の若者という気がする。」
 
 
 ギニアスの言葉にカエルが頷くが、若干腑に落ちない部分も有る様だ。
 
 
「そうだな。この森を知る若い世代としては期待の星とでも言うべきだろうな。
 …とはいえ、そこまで入れ込むわけにもいかんが。」
 
 
 カエルの言葉に相づちを打つ様にソイソーも言った。
 
 
「あぁ。少し良い顔をして目を放すとすぐに手を抜こうとする悪い癖がある。筋が
 良くともああいう集中力の無さは、実戦で致命的にならんとも限らん。」
 
 
 二人の懸念に対してギニアスが言う。
 
 
「ハハハ、それはまだ大人になりきってないからだろう。あの若さでそこまで求め
 るのはルーヴィル殿に酷だ。」
 
 
 ギニアスの言葉にソイソーが憮然として言う。
 
 
「フン、ずいぶんと軟弱な時代になったものだ。」
 
 
 だが、カエルはソイソーのその言葉を即座に否定した。
 
 
「それは違うぜ、俺達の時代が暗すぎたんだよ。」
「…なるほど。」

 
 
 カエルの言葉に納得するソイソー。
 3人は互いの顔を見合わせて大笑いした。
 
 
 3人は暫くの間談笑してからそれぞれの家路についた。
 
 
 この頃の森は既に広大な範囲を繁茂し、砂漠は遂にゼナン大陸から消え去った。
 山々も緑が茂り、西はミスリル、北はデナドロ、東は魔岩窟と昔まで木々の少な
かった山々までも木が茂り、川の流れを形成し、森に潤沢な水と栄養と湿潤な気候
を齎すようになった。
 
 広大な森となってからは村も幾つかに点在するようになり、特に山々が形成した
大河が海へと帰って行く東側に多くの集落が点在しだした。
 最初に村のあったフィオナの小屋付近は今や湖の中にあり、村の中枢機能も東海
岸寄りの方角に若干移動した。今ではそこをフィオリーナと呼び、この森の中心地
として商業も生まれつつ有った。森の住民は幾つかの村で住まうようになり、その
村から剣の修行場に行ったり、森の整備のために働きに出るようになった。
 
 カエルの家はフィオナ達と共には引っ越さず、湖に消えた村の場所から少し西に
離れた場所に家を建てて住んでいた。この場所は修行場と村が等距離で行ける場所
にある。カエルはいつも修行場の帰りに元あった村の場所である湖を見ながら自分
の家路についていた。
 その途上…
 
 
「っう…」
 
 
 カエルは突然目眩を感じはじめる。
 目の前の視界が多重に重なり、湖の輝きが無数に見えては一つになりを繰り返し、
まるでグルグルと回っているように見え始めた。
 
 
「ぐあ、、あぁああ、うぅ、うぁ…」
 
 
 カエルは必死に近くの木に寄り掛かり体制を整えようとするが、思うように歩け
ずふらふらと道端に倒れ込んだ。尚も激しい目眩の他に頭痛が始まり熱も帯び、体
中全体から焼けるような熱さを感じはじめた。
 
 
 突然の異変に成す術も無く、カエルは意識を失った。

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