クロノプロジェクト正式連載版

第69話「複製」
 
 
 ロノはフォルスの話を了解すると、自分の荷物を持って出て行った。
 小屋の外は確かに見覚えのある景色が広がっていた。
 
 
「(…確かにここだ。ルッカの家から見えた景色が見える。あそこがトルース山で、
  向こうの丘がラミラの丘。その向こうは確か崩れ谷だったはず。景色だけは変
  わらないか。)」
 
 
 クロノは過去の記憶を思い出しながら裏手に回る。
 
 裏手にはフォルスの言う通り小屋があった。
 鍵は空いていたのでそのままドアを開けて入って行くと、中は御座が敷いてある
だけの何も無い部屋だった。そこで御座を退かしてみると、そこに小さな手の平サ
イズの四角い切り込み跡があった。
 クロノはそこに手を触れてみる。すると、その石がそのまま下に凹み、地下で何
かがゴトゴトと動く音が始まって、目前の床が大きく下に凹み始めた。
 慌てて動いていない床に身を避けると、凹んだ床はある程度落ち込むと横にスラ
イドを始め階段が露出した。
 
 
「すげぇ…」
 
 
 クロノは一言呟くと階段を降りて行く。
 階段の底は暗くて何も見えない。
 電気も火も無く、部屋に差し込む薄暗い光が若干射し込む程度で、手探りで降り
て行くような階段だった。
 クロノは躊躇せずそのまま下への階段を歩き始めた。しばらく降りると上からの
光も届かない、完全な闇に閉ざされた。
 
 なおも階段を降り続ける。
 ひんやりとした空気。しかし、その割にカビ臭くは無い。
 下から風が吹いているからだろうか、この中は思ったより換気がしっかりしてい
る様だ。
 
 降り続けていると、突然壁に激突した。
 
 
「痛!……あ?」

 
 
 クロノがぶつかった壁がゴトゴトと動き始め、隙間から光が漏れる。すると後方
の岩がスライドしてきて階段が閉ざされた。
 
 
「!?」
 
 
 後ろを閉ざされて焦っていると、前方から声がした。
 その声は穏やかそうな、若い男の落ち着いた声だった。
 
 
「大丈夫ですよ。既にフォルスから連絡は入っています。
 それより如何です?我々の技術は?」

 
 
 扉が開かれ現れた部屋は10畳程度の広さの部屋で、部屋の中央に黒い球体が設
置されており、そこを中心に様々な機械のコードらしきものが周囲の壁や床を這っ
ている様な有り様だった。
 開いて右側面には机とコンピューターらしきものが置かれており、そこに椅子に
座ってこちらを見る若い男の姿があった。
 若い男は年齢は自分と同じくらいだろうか、いや、若干自分より上かもしれない。
四角く黒いフレームの眼鏡をかけ、穏やかそうな顔立ちにセミロングまで伸ばした
髪形が印象的な青年だった。
 
 
「君が…あなたがブランカさん?」
 
 
 クロノの問い掛けに、青年は先程も壁越しに聞こえた優しげな声で答えた。
 
 
「そうです。私がブランカです。」
「あなたと話して欲しいと言われた。どういうことなんだ?」
 
 
 クロノの問い掛けに、ブランカは眼鏡を片手でかけ直すと言った。
 
 
「それは魔法にあります。」
「魔法?」
「我々は魔族ではないので魔法は使えません。しかし、ガルディアの王族…あなた
 の様に一部の人の中には魔力を持つ人もいる様です。魔法はエレメントと違って
 何度でも打ち出せます。これは魔法が人間の生体エネルギーを消費して打ち出す
 からです。
  そこで、我々はそのエネルギーを引き出す技術を研究しています。これができ
 れば、従来魔力が使えないと考えられた人も魔法が使えるようになります。」
「その…、つまり…、どういうことだ???」
 
 
 ブランカの眼鏡がズレる。
 クロノは突然の混みいった内容に頭が混乱してしまった。
 ブランカはそんなクロノを察して答える。
 
 
「魔力を引き出す道具を開発しているんです。いや、正確には複製しようとしてい
 るのですが。」
「複製?元があるのか?」
「えぇ、メディーナ製のリストガンの簡単な設計図が元としてあるのですが、どう
 しても引き出す構造の詳細を見ないことには複製が難しいんです。そこで、魔法
 を実際に使ってもらえればデータがとれるので、それを元に今まで開発したリス
 トガンを完成させられます。これを使えば我々の戦力は大幅に増強できるのです。」
「な、なるほど。で、どうすりゃいいんだ?」
 
 
 ブランカはリストバンドとヘアバンドを渡した。
 リストバンドにもヘアバンドにもコードが何本も付いていて、それらはブランカ
の前にある机の上にあるコンピューターに繋がれていた。
 クロノはブランカからそれらを受け取ると装着する。
 
 
「付けたぞ。あとは魔法を打つだけだけど、ここだと危険じゃないか?」
「あぁ、それでしたら、そこにある球体に向けて魔法を放って下さい。それは魔力
 を吸収する素材で出来ています。」
「わかった。」
 
 
 クロノは部屋の中央にある黒い球体に向けて意識を集中した。するとクロノの体
中から稲妻が走る。
 
 
★CPミニ知識。
 黒い球体とは太陽石。オリジナル太陽石と比較すると純度も低く、大きさも四分
の一程度だが、太陽石の持つ魔力を吸収する性質はこの時代の魔力放出実験時の緩
衝材として幅広く利用されている。買う場合はとても高価な素材。
 ちなみにここで使われている太陽石はルッカ作。

 
 
 その様子にブランカの目は釘付けになった。
 
 
「はっ!」
 
 
 クロノが手を振り上げたかと思うと、一気に球体に向けて指射して下げた。
 蒼い稲光りが走り、バリバリと音を立てて指先から黒い球体へ稲妻が走る。それ
は一瞬で球体を包み込み、稲妻はしばらくバチバチと音と光をだして暴れると、球
体の中に次第に吸い込まれて行った。
 
  
「…凄い。本物はこんなに。」
 
 
 ブランカはしばらく呆然とその光景を見ていたが、はっとして機械の計器が弾き
出したデータを見た。
 
 
「うぉ!?こっちも大収穫だ!ありがとう!クロノさん!」
「あ、あぁ。お役に立てたようで。」
 
 
 とっても呆気ないので、クロノはブランカの反応に戸惑った。
 
 
「えっと、俺、これで良いんだよな?…後は何かあるかな?」
「あ、え?あぁ、もう大丈夫です!えー、とりあえずそちらのドアから外に出て下
 さい。あ、向こうにトーヤもいるので、わからなかったら彼に聞いいて下さい。
 うはぁ、これは良いぞ!凄い!やっぱ生は凄かった!…
 
 
 ブランカはもう自分の世界に入っている様だった。
 クロノは言われた通りに、先程の入り口から左側の壁面にあったドアを開けた。
 ドアの向こうには長い通路があり、そこを抜けると大きな部屋に出た。中央には
シルバードとは違うが、羽の生えた機械の様なものが置かれていた。近付いて機体
を見上げる。
 
 すると…
 
 
「格好良いだろ?」
 
 
 機体の下から声がする。
 そちらをのぞき込むと、トーヤが下の車輪部分を何やら工作している様だった。
 
 
「やぁ、そこにいたか。ブランカさんが外に出るには君に聞けと言っていた。」
「そっか?外に出るには、そこのはしご有るだろ?」
 
 トーヤが部屋を見回すと、自分の入ってきた入り口の対角線にある壁側に鉄製の
はしごが見えた。
 
 
「あぁ、あるある!あれを登れば良いんだな?」
うん。あ、でも…ま、いっか。」
 
 
 トーヤは黙々と作業をしていた。
 クロノの存在には全く興味ないという風に。ただひたすら機体の整備をしている
様だった。
 クロノは彼が執心するこの機体を改めて眺めてみた。初めて見る機械。車輪があ
る所をみると動くものらしいが、羽は飛ぶ為のものなのか?…しかし、こんな華奢
な機体で空を飛べるとも思えない。スクリューが付いている所を見ると、船なのか?
 細部を見ながら言った。
 
 
「これは何だ?」
 
 
 クロノの質問に突然トーヤは作業をやめて言った。
 
 
「え?まじ?飛行機も知らねーの???ダッセー。」
「…悪かったなぁ。飛行機?これ、飛ぶのか?スクリューついてるけど…」
「スクリュー?」
 
 
 クロノの答えに、トーヤは思わず爆笑した。
 
 
アハハハハハハハハハ!!!マジで言ってる!?!
 これプロペラだぜ?確かに似てるけど海なんて泳がねぇよ。」

 
 
 トーヤは笑いながら機体下から出てきた。
 クロノは彼の爆笑振りに赤面しつつ言った。
 
 
「じゃぁ、飛ぶのかよ?」
「あぁ、まだ完成してないけどな。でも、必ず飛ばす!」
 
 
 トーヤはそう言うと機体を誇らしげに見た。
 その目は輝き、とてもこの機械を作ることを楽しんでいる様だ。
 
 
「これ、自分で作ったのか?」
そうだぜ!…まぁ、ブランカ兄さんにも手伝って貰ったけどよ…。」
 
 
 自信満々といった程でも無さそうだが、この飛行機を作ることは彼の夢みたいな
ものなのだろうか。なんとなく、ルッカの遠い過去の面影を彼に重ね、懐かしく感
じると同時に、一つ聞いてみたくなった。
 
 
「なぁ、君の夢はなんだ?…その、この飛行機を作ることが夢なのか?それとも、
 これで何をしたいんだ?」
「俺の夢?…そうだなぁ、俺、確かにこいつを作る事好きだ!でも、これは夢じゃ
 ねぇ。俺、将来ブランカ兄さんみたいに科学者になるのが夢なんだ!」
「それはどうしてだ?」
「どうしてって、そりゃ決まってるじゃん!科学は人を幸せにするためにあるんだ
 ろ?なら、俺はその科学の力でここのみんなや世界を幸せにしたいんだ。こいつ
 を作ってるのも、こいつが完成すれば…みんなで空からここを脱出できるだろ?」
 
 
 クロノは彼の回答に驚いた。
 彼はこの年齢で将来を見つけ、そして、それがどんなもので誰のために使うべき
ものかを知っている。クロノは正直、自分が同じ年頃にこれほどの明確な答えは持
っていなかった。
 この答えが意味する事が、今の現実を物語る様な気がして胸が痛んだ。
 自分の知らぬ間とはいえ、この世界の引き金を引いたのは…紛れも無い自分達の
行いに他ならない。
 
 
「スゲーな、トーヤ。俺が同じ年頃の頃なんて、せいぜいお城の騎士になるのが夢
 くらいなもんだったぜ。」
「へへ。」
「これが完成したら乗せてくれよ。」
良いぜ!…………その、さっきはごめんよ。」
「え?」
「生意気なこといって。ごめんなさい。」
 
 
 トーヤは深々と礼をして謝った。
 突然のことで驚いたクロノだが、そんな彼の素直さに微笑ましいものを感じた。

 
 
 …元々、彼の言い分にも一理あると思っていた。
 
 少年の頃、…自分の非を認める素直さが自分にも有ったのだろう。
 
 それが、大人になるに従い沢山の物事を経験し、それらが積み上がるにつれて、
 …一つ、また一つ…自分の中から素直に振り返り、省みる心を忘れていた気がす
る。
 
 
 素直に考えることが出来ていれば、確かにピエールの言っていた結果は…火を見
るより明らかな答えとして頭に描かれていたはずだった。だが、今まで自分達はあ
まりにも運が良過ぎた。
 
 それは、時を変えるという都合の良い行動の結果生じた悪い癖かもしれない。
 
 時は本来巻戻らず、人の世はその巻戻らない歴史に思いをいたし、自らを律し進
んできた。そして、自分もその中の住人であり、そこから逸脱して世界と関わる事
はできない。
 それが出来なければ、…再度同じ過ちを繰り返すのかもしれない。
 
 
 
「…別に良いよ。俺もそう思ったんだ。冷静に考えるきっかけになった。ありがと
 う。あ、俺、もう外に出るよ。」
 
 
 クロノは明るく返答すると、はしごの方へ向かった。
 
 
「あ、外への出口のハッチは鍵が閉まってるんだ。ちょっと待ってろよ。」
 
 
 トーヤが足早に飛行機の下から這い出て、壁のコントロールパネルを操作した。
すると、天井のハッチの鍵が開く音がした。
 
 
「そこのはしごを上って、あのハッチを出れば上にでるよ。」
「ありがとう。」
 
 
 クロノははしごを上りはじめる。
 その時、トーヤが自分の後ろをついて来た。
 
 
「どうした?作業は良いのか?」
 
 
 クロノの問い掛けに、トーヤは首を縦に振ると言った。
 
 
「なぁ、聞いて良いか?」
「ん、なんだ?」
「時を駆けたって本当か?」
 
 
 トーヤの表情は真剣そうだった。
 どうやら真面目に尋ねているらしい。
 クロノは今までこんなことを尋ねる人間もいなかったので、素直に返答すること
にした。
 
 
「…あぁ。トーヤは俺が老けて見えるか?」
「…いや。父ちゃん達よか若く見える。」
「だろ?…まだ俺の記憶は昔の崩壊しないガルディアのままさ。何もかもがな。
 …正直戸惑い続けているさ。」
 
 
 消えて行った時間、街の人々も、自分の家族も、…家族?
 クロノは考えたくない想像が思い浮かび、はっとした。
 
 
「なぁ、なぁっ!昔ってどんなだったんだ?」
「あ、…あぁ。悪い。昔か?昔かぁ。俺のいた時代は平和そのものさ。みんな仲良
 く笑顔で生活していた。街は輝いていたし、城も綺麗だった。」
「今のガルディアはどうなんだ?」
 
 
 過る姿。
 旧市街として今も残るあの姿は…時間というものの残酷さを考えずにはいられな
い。あの少女は…今どうしているのだろうか?
 
 
「………最悪だ。」
「…そうなんだ。」
 
 
 クロノはそう言うと、上へと再び登り始めた。
 すると、突然大きな爆音と共に衝撃が走る。
 
 
「!?」
 
 
 突然のことに驚く二人。
 衝撃は一度で終わらず、複数の何かが撃ち落とされる様に響いていた。 
 
 
「しっかり掴まっていろよ!」
「あ、あぁ。」
 
 
 クロノはトーヤにそう言うと、急いでハッチを開き外の様子を見た。
 そこには、驚くべき状況が展開されていた。

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 お読み頂きありがとうございます。
 拙い文章ですが、いかがでしたでしょうか?
 
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が、ご意見などでも結構です。今後の制作に役立てて行ければと考えております。
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