クロノプロジェクト正式連載版

第71話「黒薔薇」
 
 
 一方その頃…
 
 
「お前はいつも通り出ていろ。」
「あぁ。」

 
 
 ゴンジはゲルディの命令に従い、部屋の外で待機した。
 ゲルディのいる部屋の中央には沢山の白い薔薇で飾られた台が置かれており、そ
の上にはマールが眠っていた。
 
 
 突然心地よい薔薇の香りがする。
 ゲルディは緊張で体中が張りつめるように痛く感じた。一歩でも動こうものなら、
そこには死が待っている…そんな予感が過る。
 
 風が舞い、前方の台の向こうに複数の影が突然現れた。その影のうち、中央の一
際重いプレッシャーが姿を見せる。その影は男で、手にステッキを持ち、静かに歩
みマールを見た。すると、次々に白い薔薇が黒く変色していった。
 
 
「…よくやった。君の働きはとても優秀に思う。それだけに、君が僕の部下になら
 ないというのはとても残念だ。」
 
 
 そう言うと彼はマールの頬に触れた。
 彼女の柔らかい頬の温もりが伝わる。
 ゲルディは傅いたまま返答した。
 

「ノイア様、お言葉は感謝いたします。しかし、閣下のお役には立てません。」
「…ハハハ、まぁ、良いよ。君のやり方は僕は大好きだ。僕は君を支持するよ。」
「有り難き幸せ。」
「でも…今日は君に残念なお知らせだ。」
 
 
 ゲルディは自分の体の毛が逆立つのを感じた。彼の言おうとしていることを聞き
たくはなかった。だが、そんなことはお構いなしに彼は続ける。
 
 
「…君の計画より事態を少し早めなくてはならなくてね。僕としても大変心苦しく
 思うが、今回は君の計画より私の主義を貫かせて貰いたい。…いいね?」
 
 
 陸軍将軍ディア・ノイアはゲルディに優しく微笑みながら言った。
 一方のゲルディは、内心腸が煮えくり返る程の怒りで満たされていた。しかし、
ここでその思いをぶつけるわけにはいかない。

 
 
「は、仰せの通りに。」
「…ありがとう。」

 
 
 そう言うとディアは部屋の中央で腕を組んで浮かび上がると、不敵に笑みをたた
えて目をつぶった。
 すると周囲の気配から声が発せられた。
 
 
「ディア様、次は私の出番でしょうか?」
 
 
 ゲルディから見てディアの左横に立つ、影のように黒くうつろな気配が言う。気
配は他に3体の気配が見えた。
 
 
「…君はまだ未熟だ。まして、彼らは君の反属性に位置する。」
 
 
 ディアが静かに否定した。
 しかし声の主は反論する。
 
 
「心得ております。しかし、反属性は相手も同じ。決して彼等には負けません!」
 
 
 その反論に割り込む声がする。
 声は若い女性の声だが、どことなく大人を感じる声だ。
 
 
「…愚かなるは過信。」
「煩い!」
「…怒りは未熟の証明。」

 
 
 そこに新たな声が割り込む。
 声の主はだいぶ年輩のようだ。
 
 
「おやめなさい。」
 
 
 新たなる声は二人の声を沈黙させた。
 そして、続けて新たなる声はディアに語りかける。
 
 
「ディア様、たまには…可愛い子にも旅をさせてはいかがでしょう?」
 
 
 年輩の女性の声に対して、ディアは静かに答える。
 
 
「…僕の采配は温いかな?」
「滅相も無い。しかし、部下を信頼することも上司の務めと心得ます。」
「…ほう、そこまで自信があるのか?」
「勿論。我ら黒薔薇、もう何年あなたと付き合っているとお思いで?」
 
 
 ディアはしばし考える。
 年配の女性の言う通り、確かにそれほど柔な部下達ではないと思っている。しか
し、今向かわせようとしている気配は最も若く新参の存在。彼女の力では場合によ
っては手痛い結果となるかもしれない。
 
 失敗などディアにとってはさして問題ではない。問題は可愛い部下が無事に任務
をこなしさえすれば良かった。だが、この点でディアは不安があった。
 
 
「僕は結果はさして気にはしていない。だが、経過は気になるのさ。君達は僕をど
 うしても満足させようと頑張るが、そんなことはどうでも良いのだよ。大切なこ
 とは華やかさだ。それが可能であれば…あとは君達が無事に僕のもとに戻ってく
 れば良い。」
 
 
 周囲に沈黙が走る。
 それを破るのは年輩の女性の声だった。
 
 
「では、我々もサポートを。」
「それは駄目だ。君らには君らの仕事があるだろう?まぁ、今回はゲルディ、君に
 彼女のサポートを任せよう。宜しく頼むよ。」
「は!」
 
 
 ゲルディの返事を聞き頷くと、ディアは笑顔で若い気配に言った。
 
 
「では、楽しい戦いを期待している。」
「御意!!!」
 
 
 若い声は元気よく返事をして気配が消えた。
 
 
「…よろしいのですか?」
 
 
 新たなる声がする。
 その声は若いが、感情を感じられず乾いた静かな声だった。
 ディアはそれに負けず劣らず静かに答える。
 
 
「…無論さ。」
 
 
 ディアはそう言うと姿を消した。
 他の気配も後を追う様に消えてしまった。
 
 
「ふぅ。」
 
 
 ゲルディは頭を上げて立ち上がり、呟いた。
 
 
「…命が幾つ有っても足りねぇぜ。」
 
 
 張りつめた空気も薔薇の香りも何も無かったかのように消え、静かに潮風が部屋
をそよそよと流れ始める。

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