クロノプロジェクト正式連載版

第72話「少女アメテュス」
 
 
れ以上は進ませはしない!!」
「命に変えても死守する!!!」

 
 
 島の西南に位置する村では、囚人達の激しい攻撃にあって次々と破壊されていた。
 必死の抵抗の構えを見せる住人に対して、冷酷な声が一蹴する。
 
 
「…無駄な努力ね。」
 
 
 黒装束を着た少女の号令のもと、部下の黒装束達が一斉に攻撃した。
 
 
「ぐぁああああ!!!!」
 
 
 住人達はファイガの爆炎によって焼き尽されていく。その惨い姿は抵抗を見せる
住人達の心を深くえぐり、死の恐怖と対面させた。
 そんな人々の心の移ろいをあざ笑うかの如く、少女は屍の上をふわふわと浮いて、
日傘をくるくると回しながら通り過ぎてゆく。そして、その後ろを静かに赤い髭を
はやした男が従うようについていた。
 
 
「ゲルディ、さぁ、次は何処におるのか?」
は、あちらへ。」
 
 
 少女の問いに彼は素直に応じ、次の目的地への案内を始める。
 ゲルディは島のあちこちのルッカハウス側の村を少女に案内して回っていた。
 彼女は案内された地域を片っ端から部下の黒装束達に破壊させ、陽気にその状況
を傍観していた。
 そして、ついに最後の拠点であるルッカハウスの本拠地に行き着いた。
 
 
「好きにはさせない!」
「化物め!出て行け!!!」

 
 
 二人の住人が1人の少女に向かって襲い掛かる。
 
 
「初対面の人に化け物とは、随分礼儀を知らない様ですね。」
 
 
 少女はそう言って笑みを浮かべると、手の平から水の刃を出して軽々と二人を切り
刻んだ。二人の絶命の悲鳴が木霊する。その惨状に子供達は目をしかめ泣き出す子も
いた。そして、彼らを必死にかばい守ろうとするナリヤの姿があった。だが、彼女の
他は年老いた者たちしかなく、彼らに対抗するには心もとなかった。
 
 ナリヤが銃を構えて立ちはだかる。
 すると、二人を守ろうと黒装束達が前に並んだ。しかし、少女は黒装束達を後方に
下げると、呆れた顔で溜め息吐き言った。
 
 
「孤軍奮闘とは随分と格好良いですわね。でも、駄々っ子は大人げないですよ。さぁ、
 さっさと降伏なさい?」
「ナリヤ姉ちゃん!?」
 
 
 子供たちが不安そうな顔でナリヤの名を呼ぶ。
 ナリヤはにっこり微笑むと、安心するように言った。
 
 
「大丈夫、私は負けない!」
 
 
 彼女の言葉に、日傘をくるくると回しながら少女は言った。
 
 
「あら?あなた1人に何ができるのかしら?援軍を待っているなら無駄なこと。既に
 私が直々に削除してきました。可能性はゼロになったのです。」
 
 
 黒装束を纏う青白い肌をした少女は、悪びれもせずににこやかにそう答えた。
 ナリヤは最高の憎しみを込めて睨み、言った。
 
 
「どんな可能性も決して0になったりはしないわ!
 私はルッカの娘!決して諦めたりはしない!!!」

 
 
 彼女の言葉に少女は哀れむような表情を見せると、静かに地上に降り立った。
 
 
「…そのアシュティアはもういない。あなたはアシュティアじゃないわ。
 何も産みだはしないし、何も出来はしない。」

「私の心の中のアシュティアは、誰にも消せない!」
 
 
 ナリヤの銃の引き金が引かれる。
 高い射出音と共に少女目掛けて弾丸が飛ぶ。すると、弾丸は途中で炸裂し無数の氷
の粒となった。これほどの数の音速の氷ならば全てを避ける事は不可能………のはず
だった。しかし、直撃の瞬間に緑色の輝きが少女の体から発して、氷の粒は蒸気とな
って蒸発してしまった。
 少女は何事も無かったかのように微笑む。
 
 
「ほら、可能性はゼロでしょ?」
「…化物。」

「…アメテュス様、トークはこの辺にしておいては?」
 
 
 後方からゆっくりと赤鬚を生やしたゲルディが現れる。
 
 
「そうね。でも呆気無さ過ぎるわ。クロノ達はどうやらゴンジとやらに手こずってい
 る様子。ただ削除したのではディア様は納得なさいません。」
「何をしようと?」
「そうねぇ…」
 
 
 アメテュスが手をあげる。
 すると、ナリヤの後方にいた1人の少年が上空に上げられた。
 
 
「トーヤ!?!」
「姉ちゃん!?!」

 
 
 アメテュスはトーヤを宙に舞い上がらせた。彼女の視線が動く方向にトーヤは上昇
し移動し、そして、彼女の目前に引きつけられた。
 彼女は微笑んで右手の人さし指で少年の鼻をつんつん突くと、ゲルディを横目につ
ぶやく様に言った。
 
 
「随分と長きに渡って手こずったのねぇ?
 私ならばものの数分もあれば解決できたことを。」

「…。」
 
 
 ゲルディは無言で後退した。
 
 
「離せ!化物!!!!」
 
 
 トーヤが宙で暴れる。
 ナリヤがアメテュスに向かって発砲するが、先ほどの緑の光りの幕が生じて効かな
い。彼女は銃を投げ捨ててアメテュスへ襲い掛かろうとする。しかし、目前でゲルディ
に掴まれて止められてしまった。
 
 
「…血気盛んなだけじゃ、ガキと変わらんな。」
 
 
 ゲルディはそういうとナリヤを魔法で突き飛ばした。ナリヤの体が背後の老人達の
もとに投げ出される。
 子供達がすぐに駆け寄った。
 トーヤがゲルディを罵る。
 
 
「姉ちゃんに何をした!?!許さねェぞ!!ゴラァ!」
「喚くなガキ。…命に別状はない。
「…え!?」
 
 
 トーヤがゲルディの言葉を聴きナリヤの方を向くと、彼女が起き上がった。
 
 
「…私がいる限り、誰も殺させない!」
 
 
 よろめきつつ立ち上がるナリヤ。
 そんな彼女をピエールが支えいった。
 
 
「ナリヤ、もうよすんだ。」
「…ピエール。」
「お、おい!ゲルディ!我々にはもう戦う力はない。
 これ以上双方が犠牲を出す必要は無いではないか!?」

 
 
 ピエールの問いかけに、ゲルディが素っ気無く答える。
 
 
「…これも仕事でね。」
「仕事!?しかし、お前も同じ運命ではないか!」

 
 
 そこにアメテュスが割って入る。
 
 
「運命は我々がきめること。お前達に決定権は無いのだから考える必要性は皆無よ?」
「…このような言葉を許せるのか!お前は!!」
 
 
 そこに新たな声がした。
 
 
「こんな奴に言ったって無駄さ!!!」
 
 
 全員の視線がアメテュス達の後方に集中する。
 そこには無傷のフォルス達の姿があった。
 
 
「…フォルス。」
 
 
 ナリヤはフォルスの無事な顔を見て安堵すると、気を失った。
 周りは味方で囲まれており、完全に形勢は逆転する。
 
 ゲルディ達の小隊は袋の鼠だった。

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