クロノプロジェクト正式連載版

第73話「反撃」
 
 
 りを囲まれたゲルディ達の小隊だが、彼らは平然としていた。
 少女は相変わらず日傘をくるくると回しながら、後方に振り向きもせずに言った。
 
 
「ようやくご到着の様ね。
 あまりに遅いから退屈してましたわ。…クロノ殿下?」

 
 
 クロノはまたも自分の名を知る存在が現れた事に、不機嫌に言った。
 
 
「…何者だ。」
「フフ、そう焦らなくて。まずは…。」
 
 
 少女はそう言うと、左手を上空のトーヤに向け指をはじく。すると、なんと彼の姿
を一瞬で消してしまった。
 
 
「トーヤ!?!」
「何をした!返せ!!!!」

 
 
 そこにいた一同が驚いた。そして、彼の父親であるフォルスが叫ぶや否や、少女に
ナイフを構えて切り掛かる。また、彼が飛び出したのを合図に、後方の味方も皆ゲル
ディ達に攻撃を開始した。
 周囲に銃と剣の音が飛び交う。
 
 少女はフォルスの攻撃に対して、ひらりひらりと風のように舞い、まるで空でダン
スをしているかの様に軽やかにかわした。そして、ゲルディが彼の攻撃の間に入り、
ナイフを腰に下げた曲刀で受け止めた。
 
 
「貴様もあいつも許さん!」
「…お前の相手は俺だ。」

 
 
 そう言うとゲルディは彼を力いっぱい押し返すように剣を払う。
 フォルスはそれに対し後退すると、もう一つナイフを抜き構えた。
 
 
「…ヒヨコもよちよち歩き出したか。褒めてやるぜ。」
「フン、いつまでもお前の好きになると思うな!!」

 
 
 フォルスが突撃する。ゲルディの剣の間合いに自ら入ると素早く彼の攻撃を避け、
鋭く突き出す。だが、ゲルディもさすがと言うべきか、神業的反応速度で曲刀がまる
で円を描いて舞うように受け流す。二人の戦いは一歩も引かず、互いをその武器で狙
い続けた。
 
 その間、仲間達は黒装束達から住民達を守る様に戦い始める。特にクロノが剣を抜
いてからは圧倒的だった。いくら強力な黒装束といえど、クロノとの較差は歴然とし
ており、彼らも敵わないと見ると徐々に後退を始める。
 クロノはそれを見定めると、シズクや他の民兵達に住民を後方に避難させて保護す
るよう指示を送る。そして、自分自身は敵の親玉である少女に向かって、一歩一歩立
ちふさがる敵を打ち倒して進み始める。
 その歩みはゆっくり静かだが、周囲を圧倒する程の静かな怒りに満ちていた。
 少女を守ろうと懸命にも対峙する黒装束達。彼らは武器による攻撃では無理と悟る
と、次々に魔法による攻撃を始めた。だが、クロノはそれらの攻撃をものともせず、
魔力を込めた剣によってことごとく打ち払った。…今のクロノの姿は、彼らから見た
ら山のように映ったに違いない。
 不甲斐ない部下の最後の姿が目前にさらされた。だが、少女はそんなことには全く
興味が無いようだ。むしろその姿に苛立ちすら覚えている様だった。
 
 
「…私の見ている前で、計画を崩壊させる動きは賢明じゃないわ。」
 
 
 少女はつぶやくようにそう言うと、後方で民兵を援護して住民達の避難にあたって
いるシズクに魔法を放った。だが、シズクは素早く察知して、その攻撃を片手で打ち
込んだファイアで迎撃してみせる。そして、クロノの方を向くと言った。
 
 
「私もすぐに行くわ。」
「あぁ。みんなを頼む。」
 
 
 シズクは素早くトラップフィールドを展開すると、黒装束達の攻撃を完全に阻み後
退していった。
 クロノも遂に最後の黒装束を切り倒した。もう残るは少女とゲルディのみ。だが、
ゲルディはフォルスの相手をしていて助けに来れそうもない。もう、少女の前には誰
も守る者はいなかった。
 
 
 少女の傘の動きが止まる。
 
 
 静かに日傘を閉じると、目を閉じて集中し出した。すると、溢れ出るように魔力が
風となって吹き出した。その力は周囲の部下の遺体を吹き飛ばしてしまうほど強烈な
力だ。
 
 
「…気に入りませんね。本気で行きますよ。」
「…望む所だ。」

 
 
 クロノが静かに構える。
 少女が目を開けると、瞳が蒼く輝いていた。そして、宙に浮き上がると体中から水
が吹き出して、一気にクロノに襲い掛かる。
 突然の水に驚くが、素早く回避してバック転しつつ後退した。そして自らも魔力を
指先に集中させると、彼女目掛けて投げ放った。
 
 クロノを水で包み込もうとする力と、それを弾き返そうとする稲妻の力が激しく抵
抗しあって、衝突面でショートが起こる。
 
 
 ドン!ドン!
 
 
 その音は水蒸気爆発を起こしたような爆音を周囲に響き渡らせ、周囲を圧倒した。
彼らの戦いは凄まじく、近くで戦っていたフォルス達も衝撃波で飛ばされた。
 
 飛ばされた二人は驚いていた。
 フォルスはクロノの真の力が、これほどのものとは思いもしなかった。…これなら
ば魔力を使い時を駆けるという話も、そう頷けなくないと感じるほど。だが、同様に
注目したのは彼だけではなかった。
 敵であるはずのゲルディもまた、少女ではなくクロノの力の大きさに内心驚いてい
た。
 二人は体勢を整えるとすぐに構え、再び剣を交える。今は考えるときではなく、戦
う時であるというのが二人の共通の結論だった様だ。
 
 
 
 その頃…
 
 
 爆発音を聞き付けてルッカハウス前の地面がパカリと上にあがった。ハッチから覗
くのはブランカだった。
 
 
ぉ、素晴らしい!あれだ!…よし、データデータ…っと。
 ぉお、
ぉお!凄い凄い!
 
 
 ブランカは人気の無いルッカハウス前で、機械のセンサーをクロノが戦闘している
方向に向けると、計器の振れを見て独り熱く燃えていた。
 
 
 …彼は彼で何かと戦っているようだ。
 
 
 クロノは少女を睨み、更に出力を上げた。クロノの体も浮き上がり、体中から稲妻
が閃光を発して溢れ出す。最初優勢だった少女の水の波が徐々に徐々に押され始め、
遂にクロノの稲妻の力が周囲の水を圧倒し始めた。衝突面では更に激しい爆発音と共
にショートが起こる。
 アメテュスも負けじと魔力を注ぐが、なかなか勢いを取り戻すのは容易ではなかっ
た。
 
 
「(くぅ…、凄い出力…これがクロノ!?)」
まだまだまだぁあああああああああ!!!
 
 
 クロノが一気に畳み掛けるように魔力を放出した。莫大な魔力は閃光とともに一瞬
にして急拡大を始める。クロノの周囲を青い稲妻膨れ出し、少女目掛けて走り抜けた。
 それはクロノ最大の魔法、シャイニング。
 
 
あ、あぁ!?キャァアアアアアアアアア!!!!」
 
 
 アメテュスの体が激しくショートする。
 青い稲妻は容赦なくアメテュスを焦がし火を吹き出させた。しかも、彼女自身が出
した水の魔法が稲妻を帯電させ、彼女の体の自由を奪っていた。もはやアメテュスに
反撃の余地は無かった。
 だが、少女はまだ一人ではなかった。ゲルディは彼女の状況を見ると、フォルスの
ナイフを薙ぎ払い跳躍し、土のエレメントを少女の真下の地面に打ち込んだ。
 アップヘイバルの黄金の閃光が地面から発すると、一気に土が隆起した。すると、
土がアメテュスの周りの水を吸収し、稲妻の魔力を放電させた。そして、その放電が
終わると素早く彼女を保護して撤退を始める。
 
 
「逃がさねぇ!!」
 
 
 フォルスが追う。
 だが、ピエールがそれを止めた。
 
 
「深追いはイカン!今は体制を立て直すことが先決だ!」
…クソォ、ぁ!わかってるよ!!!
 
 
 ピエールの言葉にフォルスは渋々同意した。
 今逃したら確実に大きな反撃となって戻ってくる。そして、トーヤのことも。
 …それを思うと腸が煮えくり返るだけでは済まなかった。怒りは今にもピエールを
突き放し、前へ進ませようとしている。でも、それを表に出すわけにはいかなかった。
 行き場の無い怒りが心の中で不完全燃焼するのを感じていた。
 
 ピエールとてフォルスの気持ちが分からなくはなかった。しかし、この惨状は彼に
自由に追うことを許せる状況ではなかった。…今は一人でも多くの息のある仲間を助
けなくてはならない。
 トーヤのことは親の気持ちとして感情的になるのは無理も無い。だが、ルッカハウ
スは孤児院であり、トーヤ一人に情を注ぐわけには行かない。彼らはトーヤの親であ
ると同時に、他の多くの孤児達の親でもあるのだ。そして、今までにも彼に起こった
様にさらわれ、子の命を奪われた親はいた。厳しいが、彼を特別扱いするわけにはい
かなかった。
 彼はフォルスと共に、近くの集落の他の無事な仲間達を探し集め始める。
 
 
 戦いが終わり、クロノが剣を鞘に収めた頃、住人達を後方の安全な場所へ避難させ
ていたシズクがやって来た。彼女は走ってきたものの、全てが終わっていたことに少々
落胆してる様子だった。だが、それよりも残された惨状の酷さに、溜め息をつかずに
はいられなかった。
 
 
「…酷いものね。」
「…あぁ。」
 
 
 クロノにはそれしか答えようが無かった。
 …この状況は、どんな言葉でも説明し尽くす事は出来ないだろう。
 
 
 彼らの目前に残されたものは、焼け落ちた家々と多くの死傷した仲間達の姿だった。

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